「おい、何グズグズしてんだよ。早く買ってこいよ」


「……えっと、今日は何にしましょうか?」


昼休み。あたしは小野君の前の席に座って首を傾げた。


机に肘を突いて喋る小野君。


小野君に至近距離で見つめられて心臓がバクバクと暴れ出す。


小野君との距離は30センチあるかないか。


その30センチは、あたしが小野君と自然に会話できるギリギリのラインだった。



「焼きそばパンとカレーパン。それとメロンパンとコーヒー」


「え……えっと、焼きそばパンと……カレーパン……と?」


……それと……なんだっけ?


一度に何個も記憶できるほどあたしの頭は良くない。


というか、小野君が顔を近付けて喋るからあたしの頭がまともに働かないんだ。



「……えへへ、忘れちゃった」


こういう時は、笑って済ませるに限る。


ポリポリと頭をかきながら照れ笑いを浮かべる。


小野君はそんなあたしを見てうんざりした表情を浮かべた。



「使えねぇな。焼きそばパンとカレーパンと……あとは適当に買ってこい」


適当にって言うことは……――



「……小野君も覚えてないんだ……」


心の声は口からポロっと零れ落ちていたみたい。


慌てて口を塞いだけど、時すでに遅し。


「何か言ったか?」


小野君は口の端を持ち上げて意地悪く笑うと、グイッと顔をあたしに近付けた。


30センチがギリギリなのに、今は5センチもない。


少し動けば互いの唇が触れ合ってしまいそうなほどの距離。


小野君から漂う甘い香水の匂いが鼻をくすぐる。



「……――パン買ってくるね!!」


ダメ!もう限界!!


あたしは勢いよく立ち上がると、小野君から受け取った長財布を手に走り出す。


小野君はそんなあたしを満足そうに眺めていた。