「ったく、しょうがねぇな」
小野君は溜息をつくと、あたしの体に腕を回した。
「小野君……ありがとう……」
小野君の温かい胸に顔を埋めるとさっきまでの恐怖が緩んでいく。
ぎこちなくあたしの頭を撫でる小野君の手は直人君のものとは比べられないくらい心地よくて。
「絶対に鼻水くっつけんなよ」
「くっつけないよ!」
もしかして……小野君笑ってくれた?
反論すると小野君の体がわずかに震えた気がした。
そして、小野君はあたしの体をギュッと力強く抱きしめた。
「お前は心の中で、俺の名前を叫んだんだな?」
「え……?」
「だから、あいつじゃなくて、俺だったかって聞いてんだよ。俺に助けてほしかったんだろ?」
「そんなの当たり前だよ……」
あたしがそう答えると、小野君はあたしの頭を優しく撫でながら耳元で囁いた。
「……助けにいけなくてごめんな」
ねぇ、小野君。
直人君は小野君のことを呑気だって責めてたけど、小野君は呑気なんかじゃないよね。
だって小野君、人混みをかき分けながら、あたしのことを必死で探してくれたもん。
真剣な顔して一生懸命探してくれた。
今だって、悔しそうに謝ってくれた……。
「小野君……ありがとう」
あたしは小野君のシャツをギュッと掴んで、大きな胸に頬をくっつけた。



