――ああ、そうか。


お母さん、死んでなんかいなかったんだ。


だから、私、泣かなかったんだ。


こみ上げる泣きたくなるような、安堵感。


「お母さん!」


駆け寄ろうとした茜の足が、ピタリと止まった。


ニィッ――と、女が笑ったのだ。 


上がった口の端から、白い、大き過ぎる犬歯が覗く。


禍々しい程の輝きを放つ双眸。


それは、あの鬼と同じものだった――。


あまりの恐怖で、金縛りにあったように動けない茜に、母の顔をしたそれは言った。


「石ヲ、返セ」と。