「お前は、神津敬悟だよ。今も昔もね。育てた私が言うんだから間違いないさ」
その笑顔は、敬悟に衛と初めて出会った時のことを思い起こさせた。
『今日から、私が君のお父さんだ。
明日香が、お母さん。
茜が、妹。
これから、私たちが君の家族なんだよ、敬悟』
幼い日。
交通事故で唯一の身内の母が死に、天涯孤独になった敬悟を施設に迎えに来た、母の兄だという、『衛おじさん』は、そう言って今と変わらぬ穏やかで優しい笑みをくれた。
それは、上総によって仕組まれた出会いではあった。
だが、『家族の一員』としての生活は、確かに、敬悟の中で人間として大切な何かを育んで来た。
だからこそ、今の敬悟が存在するのだ。
――この人は……。
きっと、全部お見通しなのだ。
俺の迷いも、苦しみも。
それでも、戻ってこいと、一緒に行こうと手を差し延べてくれる。
俺は、この人のようになれるだろうか?
敬悟の胸の奥に、熱い想いが込み上げる。
『はい』と頷くその瞳から一筋、光の粒がこぼれ落ちた。