と言うことは、私がやったの?


それとも、石の力?


今、茜の目の前に広がるのは、すり鉢状になった崖下の底辺部分で、かなりの広さがある。


地面は土ではなく、乳白色の人工物で大理石に似ていた。


中心に直系二メートル、高さ五メートルほどの石柱が建っていて、その上に乗っている半円形のドームが青白い光を放っている。


崖の上からは分からなかったが、かなり大きなものだ。


結界の発生装置――。


その足下を、二人は間断無い大鬼の攻撃をかわして、ひたすら右へ左へ逃げ回っていた。


まるで鋭いナイフのように降り注ぐ黒い霧が、今茜が走り抜けた地面に穴を穿って、すぐさま宙に浮かぶ。


渦を巻き、また一固まりになって大鬼の形に変化し、二人を追いかける。


まるで、猫に弄ばれる鼠だ。


際限がない。


上総のように、生物としての『体』を持っているのならば敬悟にも勝機はある。だが、相手は、実体を持たない言うなれば『精神体』。


それも一つではなく、敬悟も茜も無数の個を感じていた。


あの大鬼が精神体が複合してできあがったモノなら、その持久力の差は歴然としている。


純血体だろうが混血体だろうが、肉体を持った生物が走り続けられる時間など、たかが知れているのだ。


茜も軽口を叩いてはいるが、緊張の連続で心身共に、とうに限界点を超えているのは明らかだ。


敬悟とて、大差はない。


このまま、いつまでも逃げ回れるはずがない。


逃げ切れないなら、戦うしかない――。