「茜! 呆けてる場合じゃない! しっかりしろ!」


「きゃっ!」


怒鳴り声と共に強い力で腕を引かれ、茜は思わず短い悲鳴を上げた。


「え? えっ!?」


茜は敬悟に手を引かれて、地面を駆けていた。


背後には、唸り声を上げて迫ってくる巨大な黒い影。


懸命に走りながら、今の状況を飲み込もうと必死で考えを巡らす。


――確か、大きな鬼に追われて、崖下に落ちなかったっけ?


「ここ、地獄じゃないよね?」


「この状況で、良くそんな冗談が言えるなっ!」


「な、何で私たち生きてるの!?」


さすがの茜も、あの高さから落ちて命が助かると思うほど楽観的じゃない。


ケガ一つしていないのが信じられなかった。


「俺に聞くな! 俺がやったんじゃない!」