「ぐっ……がっ……」 


痛みに呻く敬悟の眼の奥に、赤い炎が灯った。


それは、ゆらゆらと揺らめきながら、その光を強めて行く。

 
「変化してみたらどうだ? でなければ、我には勝てぬぞ?」


嘲るように、鬼が嗤う。


――出来るものなら、とっくにそうしている。


だが、敬悟にはその経験も無く、方法も分からなかった。


――なら、今の自分の力で戦うしかない。


敬悟は、掴まれている左腕を基点に己の身体を振り子のように後ろに振った。


その反動を利用して、鬼の腹に渾身の力を込めて蹴りを入れる。


どん。


肉と肉のぶつかり合う、鈍い音が夜の静寂に響いた。


――が、鬼の表情には、何の変化も起こらない。


ますます深く食い込んだ爪が、更なる出血を促し、敬悟と鬼の身体を赤い筋となって伝い落ちて行く。