【14 対決】
シュッ、と風が鳴った――。
そう思った瞬間、敬悟の身体は、後ろにはじき飛ばされていた。
五メートルほど斜め後方に頭から突っ込んだ敬悟は、呻く事すら出来ない。
「どうした? それでも鬼部の血を引く者か? 少しは、手こずらせてみたらどうだ? もたもたしていたら、茜は助けられぬぞ」
鬼に変化した上総の声は、通常のそれより低く、くぐもっている。
地の底から響くような冷酷な声――。
正にそれは、上総という人間の皮を脱ぎ捨てた鬼の本性を表していた。
「くっ……そっ!」
痛みに軋む身体をなんとか引き起こすと、敬悟は立ち上がった。
はあはあと、肩で息をしながら、反撃しようと身構える。
トン――。
何の前触れもなく、目の前に鬼が現れる。
「うっ!?」
避ける間も瞬きをする間もなく、今度は、左腕を無造作に掴み上げられた。
重さなど無いように片手で軽々と、まるで子猫を掴み上げるかのような手軽さで敬悟を持ち上げる。
その鋭い爪が、ギリギリと腕の皮膚に食い込み突き刺さり、鮮血が身体を伝って地面にしたたり落ちて行く。