「茜、起きてるか?」


新幹線の窓の向こう側を飛ぶように流れて行く景色を、ぼんやりと眺めていた茜は、敬悟の声にすぐには反応しなかった。


鬼押村を出てから、ずっとこんな調子だ。


いつもなら、大抵のことは一晩寝て美味しい物を食べれば元気になる茜も、さすがに精神的にダメージが大きかった。


共に過ごしたのは、ほんの短い間だった。


だが、玄鬼という存在が如何に大きいものだったか、茜は今更ながら思い知らされていた。


もう、何処にも居ないのだという喪失感に、ともすればあふれ出しそうになる涙を、懸命にこらえる。


その繰り返しだった。


「茜?」


「うん。起きてるよ敬にぃ……」


眠れない。


鬼押村を出てからここ2日。


体は疲れて居るのに、気持ちばかりが高ぶって眠ることが出来ないでいた。


「少しは何か食べた方がいい。体を壊したんじゃ、何も出来ないぞ?」


「……うん」


茜は、敬悟が差し出したサンドイッチと缶コーヒーを受け取り、小さく頷いた。