「何を、とな?」
赤鬼は愉快そうに声を上げた。
「明日香に何をしたと聞いている」
「人間には、関係のないことだ。それに――」
『すぐに死ぬ人間にもな』
その言葉を耳にした瞬間、衛は自分の全身の骨がきしむ音を聞いた。
気付いたときには、元いた場所から十メートル以上も離れた場所に倒れ込んでいた。
何が起こったのかも分からなかった。
「っ……」
うめき声も上げられない。
死と言う名の従者を連れて、ゆっくりと、赤鬼の重い足音が近づいてくる。
衛は、明日香の話から、彼女の一族が特殊な遺伝的要素を有していることを知っていたが、まさかこれ程とは思っていなかった。
例えどんなに特殊であっても、相手は『人間』
話し合えば理解できる筈。
だがこれは、そう言うレベルの問題じゃない。
『話の通じる相手じゃない』
こんなことならもう少し早く、無理にでも君を連れてここから逃げ出していれば良かった。
――すまない、明日香……。
「や……めて。だめよ、赤鬼。彼を手に掛けてはだめ」
衛が、己の死を覚悟したとき、赤鬼の腕の中の明日香が目を覚ました。



