この感覚には覚えがある。
あの日。
赤鬼に襲われた日に感じた、圧倒的な力に対する恐怖の念。
明日香もそれを感じたのか、不安げに足を止めた。
「明日香さん?」
普通の人間である衛には、そんな感覚は備わっているはずもなく、傍らで急に怯えたように表情を硬くした命の恩人の少女の顔を、ただ気遣わしげに覗き込んだ。
『ちっ!』っと、玄鬼が舌打ちをして、足を止めた恋人達に向かって叫び声を上げる。
「明日香! 赤鬼が帰ってきた。一度屋敷に戻った方が良いぞ!」
「ええ、分かっているわ」
青ざめてはいるが、明日香は気丈に頷いて白鬼に視線を移す。
「白鬼は、衛さんとここにいて」
え!?
「で、でもっ」
「お願い。必ず戻るから、それまでお願い!」
――彼を守って。
明日香の心の声が、白鬼の能力を介して茜に届く。
必死な明日香の様子に、茜は事態が切迫していることを悟った。
恐らく、赤鬼にここが見つかれば、父は命を奪われる――。
「分かりました!」
茜は、しっかりと頷いた。



