張り詰める空気。
少しでも身動きしようものなら、瞬時にその強靱なかぎ爪でなぎ倒される。
目を逸らしたら、そこで全てが終わってしまう。
それは、動物としての本能が抱く、狩られる事への恐怖。
「私の、従兄と友達を帰して!」
ともすれば、逃げ出したくなる恐怖心と戦いながら、茜は真っ直ぐ鬼の双眸を睨んで再び静かに言い放った。
数瞬後、茜は『ふうっ』と、張り詰めていた空気が緩むのを感じた。
鬼が、笑ったのだ。
『気の強い娘よの――。そんなに、この者たちが大事か? 人間の男など、吐いて捨てるほどいように』
ポウッ――。
まるで、別の空間から現れたように、鬼の足下に横たわる二つの人影が浮かび上がった。
ボロボロに引き裂かれた寝間着に滲む赤い色彩に、茜は息を呑む。
薄闇でもそれと分かる、蒼白な顔色。
閉ざされた瞳。
茜の脳裏に、倒れたまま目を覚まさなかった、真希の姿がフラッシュバックする。
背筋に、冷たい戦慄が走り抜けた。
「敬にぃ! 橘君!」



