青森県、鬼押村(おにおしむら)。


山間に位置する緑豊かなこの小さな地には、昔ながらの、のんびりとした農村の風景が広がっていた。


空の青。


白い入道雲。


様々な緑のグランデーション。


その緑の大部分を占める、棚田の青々とした稲穂を撫でながら吹いてくる午後の風は、とてもさわやかだ。


遠くからは、せわしない蝉の声が聞こえてくる。


さすがに東北の地だけあって、七月といっても関東よりは大分しのぎやすい。


京都の、あのうだるような蒸し暑さに比べれば、天国と地獄。


涼しいくらいだ。


ここ三日ほど借りている民宿の広い縁側には、気持ちの良い風が吹き込んでくる。


でもそのさわやかさとは対照的に、茜の心は晴れなかった。


「結局、ここでも手がかりが無かったね……」


縁側に腰掛けて、女将さんが出してくれた小玉のスイカを頬張りながら、茜は遠くに連なる山の峰の向こう側に消える白い飛行機雲を、ぼんやりと目で追いながら呟いた。


茜の隣に座る敬悟と信司、そして茜の膝を昼寝の定位置と決めているらしい玄鬼。


三人と一匹は、それぞれの思いを抱えて、同じ風景の中に身を置いていた。