父親は詳しく語らなかったが、もう大分以前から医師に余命宣告を受けていたらしかった。


教えてくれたら良かったのに……。


そうすれば、もっと何か出来たかもしれないのに。


苦い思いが胸を過ぎる。


最後に言葉を交わした時、母はいつもと変わらない笑顔で自分を見送ってくれた。


「じゃ、また明日、学校帰りに寄るね!」


茜のいつものセリフに、いつものように笑顔で答えてくれた。


十七歳になったばかりの茜にとっては、まだまだ母親の存在は必要なものだ。


教えて欲しいことは山ほどあるし、聞いて貰いたいことは、もっとたくさんある。


優しくて、いつも自分の味方だった『お母さん』


その母が死んでしまった。


悲しい――はずなのに。


正直いって、茜には全く実感が湧かなかった。


『茜ちゃん、こういう時は、我慢しないで泣いていいのよ?』


親戚のおばさんにそう言われたが、無理に我慢している訳ではなく、本当に涙が出てこないのだ。