茜たちは、動いていない。
お香も、歩いて来ているわけではない。
それなのに、距離が近くなる。
「ミナ、喰ロウテクレル……」
すうっ――と、
音も無く、お香であった鬼女が近づいてくる。
邪悪さをたたえた血の色の双眼に、狂気の炎が、ゆらゆらと揺らめく。
逃げなくては。
そう思うのに、茜の足は、地面に縫いつけられてしまったかのように、微動だにしない。
「そんな……」
恐怖の呟きが、茜の口を突いて出る。
「そんなもこんなもない! 死にたく無かったら、石を使え茜!」
鬼女が、正に茜たちの所に到達しようとする瞬間、玄鬼が叫びながら、茜を抱えて空を飛んだ。
鬼の頭上を飛び越え、そのまま茜もろとも地面に転がり落ちる。
だが、すぐに鬼女は向きを変え、また音もなく近づいてくる。
逃げられない――。



