ゆっくりと、だが確実に、空気が張りつめていく。 「なぜ……来ませぬ?」 お香の口の端から、笑みが消える。 「な……ぜ、キマセ……ヌ?」 澄んだ涼やかなお香の声音が、野太くしわがれたものに変わった。 ニヤリ。 お香が笑う。 白い、大きすぎる鋭い犬歯を、むき出しながら――。 鬼女は、すでに生まれていた。 茜と玄鬼は、その鬼女の作り出した空間に捕らわれていたのだ。