家の角を曲がったところで、薄ぼんやりと明かりの漏れている部屋があった。
そこは確か、お香の部屋のはず。
お香さん、まだ起きてるのかな?
ボソボソ、ボソボソ。
どうやら、話し声はお香の部屋から聞こえてくるようだ。
茜は、何となく足を忍ばせて、ゆっくり部屋の前を通り過ぎた。
と、そのとたんに、ピタリと話し声がやんだ。
「誰? 茜ちゃん?」
「あ、はい。ちょっとトイ……厠に行きたくなって」
シュルシュルと衣擦れの音がして、お香の部屋の障子がゆっくりと開く。
中から現れた、白い寝間着姿のお香に、茜は思わずドキリとした。
お香は美しい女性だ。
だが、今の彼女は美しいと言うよりは、『妖艶』だった。
闇の中。
月明かりに照らされ、蝋燭の揺れる炎に浮かび上がったその輪郭は、どこか怪しく艶やかだ。
もしかして、横恋慕の城主とやらが来ているのかも。
そう思ったが、半開きの障子の向こうには、お香の寝ていた布団が敷いてあるだけで誰もいない。
あの話し声は、お香さんの独り言?
「明かりが無いと危ないわよ。これを持って行って」
お香の声に、茜は我に返った。
「あ、ありがとうございます!」
茜は、ぺこりと頭を下げて、釈然としないままトイレに向かった。



