敬悟と茜を出迎えてくれたのは、これまた建物と同じに大分年季が入った小柄な老人。


この郷土資料館の管理人だという渡里源三(わたりげんぞう)。


区役所で『キガクレノサト』のことを尋ねたところ、『そう言う話は郷土資料館の生き字引に』と紹介されたのだ。


六畳ほどの事務所の応接セットのソファーに敬悟と並んで座った茜は、物珍しげにきょろきょろと室内を見渡した。


事務所の壁一面は、見るからに古めかしい書籍類で埋め尽くされていて、古い紙とインクとホコリの混じり合った、独特の匂いで満たされている。


それは茜に、学校の図書室を思い出させた。


図書室の窓辺で、良く真希と他愛ない話に花を咲かせていた。


まだ何日も経っていないのに、遠くて懐かしい場所――。


私は、またあそこに戻れるの?


「大学の研究テーマの取材ですか、学生さんもいろいろ大変なんですねぇ」


感心したように呟く老人の声に、茜は現実に引き戻された。


「ええ。でも、こうして色々な人に会えるので、けっこう楽しいですよ」


来客が嬉しくてたまらないといった様子でイソイソとお茶を入れ始めた渡里老人に、敬悟が笑顔で返す。


もちろん大学の研究うんぬんは嘘だったが、この際嘘も方便だ。