思わず聞き耳を立てる。
見つからないように、そっと。


唇を離した藤沢さんは、柚に言った。
「…いっただきぃ。」
「何、すんだよ。」
「見れば解るじゃない、キスよ。
何、まさか初めてだった?
ラッキー、奪っちゃった。」
柚は制服の袖で唇を拭う。
あたしはホッとした。


(良かった、柚から望んでなくて。)


「…お前、俺と付き合いたいのか?」
「もちろん。付き合ってくれる?」
藤沢さんは、いたずらっぽく
上目遣いで柚を見た。
あたしは祈るような気持ちで、見ていた。

(どうか、断りますように…。)



「…解った。」
「いいの!?」
「あぁ。」
「やったぁ。
ま、キスまでした仲だしねー。」
「…。」


あたしはショックだった。
断るとばかり思っていたから。
あたしはそのまま
教室へ入らず、帰った。