笑顔を造るのは、苦手だった。



「雨だね、葉介。」

透き通ったブルーの傘を広げて、どこか嬉しそうな声を出す夜志乃。

「梅雨って好き。紫陽花の花が咲くし、雨降ったら陸上部の練習ないし。」

「…は?」

「確かに葉介の走る姿は好きだけど、朝一緒に行けるの嬉しいもん。」

先を歩く夜志乃に葉介はついていく。

「…俺も。」

小さな声で、夜志乃の気づかれないくらいの声で、葉介は呟いた。

「あ!」

「あ?」

「国語の教科書忘れた!」

…中学二年、梅雨入りの朝。