約束の時間どころじゃなかった。
もう四時間以上過ぎている。

「でも良かった。電車事故にでもあったのかなって思ったから」

「…ごめん」

「もう良いって。寒いし帰ろ?」

俺の手を取った芙柚の手はとても冷たい。

本人も気づかないほどの冷たさ。

「店、もう閉まってるよな?」

「えっ?あ…別に良いよ」

「…誕生日おめでとう」

俺はその言葉を言っていなかった事に気づく。

びっくりしながらもこっちを向く芙柚。

「…本当はね?」

囁く素振りを見せる芙柚の方に耳を傾ける。

…ストレートに生きられず回り道をするのは、俺だけじゃないらしい。





「幸四郎に会いたかっただけだよ」




『クレッシェンド』
不思議女
END.