月と太陽の事件簿11/愛はどうだ

「緒方先生、葉野亜季さんはご存じですか」

亜季の名前を聞いたその途端、緒方教授の表情が変わった。

「知っている。彼女は僕のゼミの生徒だからね」

それまで浮かんでいた笑みは消え、かわりに少し目つきが鋭くなった。

「彼女がどうかしたのかい?」

「この手紙について頼まれごとをしました」

達郎はポケットから封筒を取り出し、緒方教授に渡した。

教授は封筒の表裏を眺めた後、中から便箋を取り出して、その文面に目を通した。

「なるほど」

しばし流れた沈黙の時間を破ったのは、緒方教授だった。

「葉野くんがこの手紙を受け取ったのかい?」

「はい。今朝、自宅の郵便受けに入っていたそうです」

「それでこの手紙についてはなんと?」

「まったく心あたりがないと言ってました」

達郎の言葉に、緒方教授は腕組みをした。

口を真一文字に結んで視線を落とす。

達郎は教授の表情をそれとなく観察した。