月と太陽の事件簿11/愛はどうだ

身内を担ぎ出すのは達郎の好むところではない。

相手が亜季でなかったら言わなかっただろう。

「気を使って頂いてありがとうございます」

そう言って亜季は笑顔で頭を下げた。

「もうひとつ訊いておきたいのですが」

「なんでしょうか」

「緒方先生の事ですが」

「先生がなにか?」

「先生になにか問題はありませんか」

「それはどういう意味ですか?」

「緒方先生が貴女に何かしてこなかったかということです」

「先生はそんな人ではありません」

亜季は伏し目がちになって言った。

「それに先生には…」

亜季は何かを言いかけて口ごもった。

その様子には明らかに逡巡の色があった。

「言いたくないことがあるなら構いません」

達郎は相手を気遣って言ったつもりだったが、亜季は首を振りながら顔をあげた。

「…月見さん、これは内密にしてもらえますか」

亜季の黒目がちな瞳が達郎を見つめる。

達郎は沈黙を誓った。