「今朝、自宅の郵便受けに入っていました」

差出人の名前はなく、封筒には消印も無かった。

「この内容に心あたりは?」

「まったくありません」

亜季は硬い表情と声で、きっぱりと言った。

そんな仕草もまた、凜として映える女性だった。

ホットチョコレートを口にしながら、達郎は手紙を読み返した。

「不適切な関係とは、ずいぶん芝居がかった言い回しですね」

「緒方先生は私の担当教官ですし、ゼミにも所属していますから、卒論や進路の相談に乗ってもらうことはあります。ですが、それ以上の関係なんかありません」

テーブルに両手を添えながら、亜季は訴えた。

静かな訴えではあったが、言葉の奥には強い主張が感じられた。

達郎は木村の言っていた【噂】というのが薄っぺらく思えてきた。

「では、この手紙の主に心あたりは」

「と、言いますと?」

「例えば、貴女を恨んでいる人間です」

「恨みを買った覚えはありません」