街ですれ違った後に振り返る男たちはひとりふたりではないだろう。

『似ているな』

達郎はそう思った。

「あの、なにか?」

亜季が達郎の視線に気付いた。

美人というものは、男の視線に対して敏感にできているらしい。

「話というのは?」

ホットチョコレートを手にしながら、達郎は努めて平静を装った。

「…こんなことお願いしていいのかわからないのですが」

少しためらう素振りを見せながら、亜季は手にしたファイルケースから、一通の封筒を取り出した。

「これを読んで頂けますか」

差し出された封筒は、素っ気ないほどありきたりな、どこにでもある茶封筒だった。

「拝見します」

達郎は封筒を手にした。

中にはこれまた素っ気ない便箋に、印刷された文章でこう書いてあった。

『葉野亜季様。貴女と緒方教授との関係は非常に不適切だと思われます。

想い慕うのは個人の自由ですが、世の中には節度というものがあるのをお忘れなく』