くちづけのその後で

雨音と一緒に院内に入って来た西本君は、すぐにあたしを見た。


「こんにちは」


顔が引き攣りそうになるのを誤魔化す為に、咄嗟に笑顔を向ける。


「俺、間に合いました!?」


少しだけ息を切らしている彼が、不安げに訊きながら重いガラス扉を閉めた。


その途端、雨音が遮断されて、院内が静かになった。


時計を見ると、西本君が予約をしている時間の1分前。


「はい、大丈夫ですよ」


あたしは笑顔を貼り付けたまま、小さく頷きながら答えた。