心臓が、ばくばくいう。

どうしよう。

よくわからないけど逃げないと。

息が切れる。

私は1分も走らないうちに、疲れてしまった。

それでも、止まるわけにはいかない。

あと50メートル程行ったところにある曲がり角を曲がれば、大きな通りに出る。

大通りまで辿り着けば、車通りもあるし、通行人がいるかもしれない。

そうなったら、誰か助けてくれるだろう。

私は必死に走った。

もうすぐ曲がり角に差し掛かろうとした時だ。

足が絡まった。

一瞬の出来事だった。

気付いたら、道路に膝をついて転んでいた。

痛みのあまり、すぐに立ち上がることが出来ない。

気合いを入れて立ち上がろうとした時、鈍い痛みが脇腹に走った。

蹴られたのだ。

後ろから追い掛けてきた男に蹴られて、私は仰向けに倒されてしまった。

「た……たすけて」

緊張のあまり声がかすれる。


マスクをしてパーカーのフードを深々と被っているので、男の表情はまったく読めない。

男は私を見下ろしている。

男の右手にはナイフが握られていた。