姉は、出勤前の準備で、念入りに化粧をしているところだった。

「ただいま」

私が言うと、姉は、アイラインを引きながら、

「おかえり」

と答えた。

「お姉ちゃん」

「何?」

「ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

「恋愛相談?」

「ううん。お姉ちゃんの先輩のことで」

「先輩って、この間亡くなった?」

「うん」

「先輩がどうかしたの?」

「その先輩のやっていたスナックの名前ってわかる?」

「うーん。なんだったかな。ヒイラギ、じゃなくて、ポテトじゃなくて……」

「ポプラン?」

「そうそう!あれ、みどりちゃん、なんで知ってるの?」

「ヨッチーの行きつけの店だったの」

「えー。すごい偶然!」

「今日行ってみたら、ポプランのママが殺されたって聞いたから、びっくりしちゃって」

「それって、ヨッチーの自殺と何か関係あるわけ?」

「わかんない。でも、こんなすぐに死んだりしたら、何か関係がありそう」

「そうだね」

「お姉ちゃん、ポプランのママが殺されたホテルの名前、わかる?」

「友達に聞いたらわかるかも」

姉は、そう言うと、ケータイを取り出して、すばやくメールを打った。

5分も経たないうちに返信がきた。

「ホテル ペンギン だって」


ホテル ペンギン。

近所では有名な大きなホテルだった。

巨大な金色のペンギンの像が、建物の屋上から生えていて、とても目立つ。

バブルの頃に作られたのだろうか。

恐らく、無駄にお金がかかっているのだと思う。

晴れた日には、うちのベランダからもよく見える。