「どこが変なんだ?」

遺書に目を通すと、ヒトシは言った。

「行が変によれているのと、文章です」

「別に普通に見えるけどなあ」

「よく見てください。ほら、行が揃っていない」

「うーん。言われてみると、なんとなくそんな感じがするかもしれんな」

「何なんでしょうね」

「わからないな」

「あとは文章ですね」

「どこが変なんだ?」

「一人称が統一されていないんです」

「一人称って何だ?」

私は鼻から紅茶を吹きそうになった。

「僕とか私とか俺です!」

「ああ。それかあ。国語は苦手なんだ」

ヒトシは真っ赤になって言った。

「ヒトシにも苦手なことがあるんですね」

何となく、ヒトシがかわいく思えた。

「確かに、統一されてないな。それって変なことなのか?」

「ヨッチーはプロをめざしていたくらい文章が巧かったらしいんです」

「へえ」

「一人称だけじゃなくて、文章も、なんかちぐはぐで……」

「ちぐはぐ?」

「この『ぼくは臭く汚い人間です』と『顔を見るのも不愉快』と『一生誰からも好かれない』っていうのがひっかかるんです」

「なぜそれがひっかかるんだ?」

「なんか、その部分だけテイストが違うんですよね」

全体の文章の流れの奇妙さよりも、まず、私はこの三つの文が気になっていた。

『ぼくは臭く汚い人間です』

『顔を見るのも不愉快』

『一生誰からも好かれない』


「なんか、悪口みたいな感じだな」

ヒトシが言った。

「そうですね。悪口みたい……」

そこまで言って、私は固まってしまった。


三つの文に対する違和感が、何なのか、たった今解った。


「ヒトシ……」

「何だ?」

「この文、知ってます」

「どういう意味だ?」

「これ、私が考えた文です」

「何?」

「私が、テプラで作って、ヨッチーの持ち物に貼っていた悪口の文です……」

「何!?」