「みどりちゃん、何飲む?」

「お酒、よくわからなくて」

「そっか。みどりちゃんなら、モスコなんて良さそうかな」

「もす子?誰?」

「モスコミュール。飲みやすいよ」


村松さんが注文してくれたのは、モスコミュールという、炭酸の入った甘いカクテルだった。


「本当。飲みやすいです」

「良かった」

「村松さんは何飲んでるんですか」

「ソルティドッグ」

「いぬ?」

「まあ、そんな感じ」


しばらくの間、私と村松さんは、他愛のない話をしていた。

良い感じでお酒が入って、とても気持ちが良かった。

村松さんも楽しそうにしていた。


世間話から、エリコの話題になった時だ。

「この間、エリコ見かけたんですよ」

と私が言うと、村松さんの顔色が変わった。

「エリコと話したの?」

村松さんは言った。

「話してないです。彼女、私を見つけると、逃げちゃって」

「あ。そう」

「村松さん、エリコと連絡取ってますか?」

「いや。全然」

「なんか、村松さん、やけにエリコを気にしている気がします」

「そんなことないよ。それより、由美子さんに会ったんだよね?」

話題を変えられてしまった。

「はい。会いましたよ。ヨッチーの遺書のことで」

「へえ。そうだったんだ」

「遺書が変とか言って、由美子さんが気にしているんです」

「変って?」

私は、由美子さんが言っていた遺書のおかしな点について村松さんに話した。

「へえ。知らなかった。あのときは、由美子さん何も言ってなかったからなあ」
「あの時?」

「いやあ。遺書を見つけたのは俺なんだよ」

「へ?」

「ヨッチーのロッカーを由美子さんと一緒に整理してたら、中からカバンが出てきてね。その中に遺書が入ってたんだ」

「遺書、店にあったんですね」

「そうなんだよね。そのときは、由美子さん、遺書が見つかって喜んでいたなあ」

「そうなんですか」

「最初は、遺書も残さないで死んだって言って悲しんでたからね」

そう言うと、村松さんはグラスを飲み干した。

「そろそろ出ようか」

「あ。はい」