バスから降りた時には、すっかり日は落ちていた。

駅前の垢抜けないクリスマスツリーには、ひねりのない色合いの電飾が光っていた。

ケーキ売りは、ここぞというばかりに声を張り上げ、クリスマスケーキを売っている。


バスの中では、ずっと遺書のコピーを見ていた。

何度も読み返しているうちに、違和感を感じるようになった。

まだその原因が何なのかは解らないが、何かがおかしいことは確実だった。

私は、あと少しで、その何かの尻尾をつかめそうな気がしていた。


駅前のカフェに入って、じっくり考えてみよう。
コーヒーなんて飲んでみたら、頭がすっきりして、良いかもしれない。


カフェの店内は混雑していた。

それでも、カウンターなら空席がある。

レジで、キャラメルカプチーノを注文して、私はカウンターに座った。

カウンター席は、窓に隣接して作られており、駅前の様子を見渡すことができた。

こんな郊外の駅でも、クリスマスイブの夜はカップルだらけだ。

何もこんな寂れた場所で過ごさなくても良いのにと思うが、彼らには彼らなりの事情があるのだろう。

私は遺書のコピーをかばんから取り出した。

じっと見つめること5分。

甘くて温かい飲み物で、気分はリフレッシュしたが、遺書にはなかなか集中できなかった。

ガラスのむこうのいちゃつくカップルが気になりすぎるのだ。

駅前のツリーの光に集まった若者たちが、みんないちゃついている。

ここではだめだ。

遺書のことは家に帰ってゆっくり考えることにしよう。

私はそう思って、カバンに遺書をしまった。

その時、窓のむこうから私を見つめる視線に気付いた。

痩せた若い女だ。

私に気付かれたのがわかったのか、女はあわてて視線をそらした。

女の顔には見覚えがあった。