「最低!」

私が言うと、ヒトシは深いため息をついた。


「すまない」

「謝って済む問題じゃないと思います」

「そうだよな」

「どうするんですか?」

「国外逃亡」

「罪を償ったりはしないんですか?」

「まあな」

「でも、外国に行っちゃったら、会えなくなっちゃうし、メールも電話も出来ないんですよね?」

「いや、外国だって、インターネットくらいあるよ……いや、僕の行くところは田舎だから、どうかな」

「どこに行くんですか?」

「また、農場だよ」

「農場?」

「ああ。僕、案外、搾乳とか向いてるみたいなんだ」

「乳牛!?」

「一日、牛の世話をしてさ、辛い仕事だけど、充実感があるんだ」

「牛の世話……!?」

「ああ、もちろん、米も作ると思う」

「水田ですか?」

「ああ。でも、日本とはやりかたが違うかもしれないな」

話しているうちに、私の頬は、涙で濡れていた。

こんなふうに、ヒトシと話すことが出来るのも、もう最後だ。

そう思うと、悲しくて、仕方が無かった。


「どんなお米を作るんですか?」

泣きじゃくりながら、私は言った。

「タイ米」



ガコン、

と、音を立てて、観覧車が再び動き出したのは、ヒトシがそう言ったと同時だった。