村松さんのお祝いの飲み会は、いつもの居酒屋で行われた。


大衆的な居酒屋で、チューハイが280円で飲めるような店だ。


メンバーは老店長以外の社員2人と遅番4人の計6人だった。


ヨッチーは嫌われ者なので、ハブにされることも多いが、妻の由美子さんがうまくフォローしていた。


村松さんに小さなプレゼントを渡したり、一気飲みをしたりして、楽しい飲み会だった。



「本当、ダブルでめでたいっすね。いやあ、村松っちゃん、いけてるよ」

すっかりご機嫌になった二郎が言う。


「ありがとう。おい、二郎。今日はかなり飲んでないか?」

村松さんが言う。


「そんなことないっスよ~」


「顔色、紫色だぞ」


「マジっすか~!?」


二郎はかなり飲んでいる様子だった。


「本当。お水とか飲んだほうが良いんじゃないかしら」

由美子が優雅な手つきでお冷やを差し出す。


「サンQ」

そう言ってグラスを受け取ると、二郎はごくごくと水を飲んだ。

「もっと欲しい?」


「大丈夫。ありがちゅ~」



こうして見ていると、ヨッチーよりも二郎のほうが、由美子さんとお似合いのカップルのような気がする。


ヨッチーは、その2人を無言で見つめていた。

陰険な目だ。

汚く不揃いな前歯をカチカチと鳴らし、手は小刻みに震えていた。


「ヨッチーさん、きもいよぉ!」

エリコが言う。

エリコのような可愛い子が言うと全く嫌味に聞こえない。


ヨッチーも、ちょっと嬉しそうな顔をして、でへへと頭を掻いた。

髪からは、ほんのりポマードの匂いがする。


「臭!」

間髪入れず、エリコが言う。


「悪い悪い」

そう言いながらヨッチーは笑顔だ。