カウンターでラーメンを茹でているのは、確かに、昨日の夜にすれ違った男だった。

男のほうも、私に気付いたみたいだ。

驚いた顔をして、作業の手を止めた。


「おい、何やってんだ。麺が伸びちまうぜ」

マスターが、男に声をかける。

「すいません」

男はあわてて麺を湯から取り出す。


「しっかりしてくれよ。タダシ」

「すいません」

タダシ……
忠……!?


確かに、今、男は『タダシ』と呼ばれていた。

ヨッチーと由美子さんの中学生の息子と同じ名前だ。

タダシと呼ばれていた男も、そのくらいの年令に見える。

由美子さんが、息子の忠は小烏ヶ丘にいると言っていた。

名前、年令、棲息地。

どれも一致している。


おそらく、彼は、ヨッチーと由美子さんの息子の忠だ。