「この羅針盤を使ってみるのはどうだ?」
そう言って、雪夜は昨日話していた羅針盤を手に取った。
「羅針盤を使うって……どういうこと?」
雪夜の提案に、奈久留はよく理解できず聞き返す。
「この羅針盤には、三つの使い方があるんだ」
「三つ?」
「そう。確かそのうちの一つに探索能力があると聞いたことがある」
すると、雪夜は目をつぶり、気を集中し始めた。
「αξεριψδβ……」
不思議な言葉だった。
聡明な雪夜の声が、体全体を包むような感覚に奈久留は浸る。
この言葉は、以前奈久留の祖父が魔術を使ってここに飛ばした時と同じものだ。
段々と、羅針盤の宝石達の光が増す。
「きゃっ!」
瞬間、宝石達が四方に光を放ったのだ。
あまりの眩しさに、目を閉じる。
そして、その光は一気におさまった。
「へ……? 何、今の?」
まるでさっきまでの輝きが嘘のようだった。
羅針盤は、それっきり何も示さない。
「おかしいな……。確か、佐伯さんはこうやってやっていたはずなのに。光が四方に散ら
ばっただけだった」
呆然と呟く雪夜に、奈久留は言った。
「え、それじゃあ」
「羅針盤は使えないみたいだ」
二人は肩を大きく落とした。

