PEACE


「奈久留……?」

木の陰から、今まで姿が見えなかった雪夜が現れた。

「一体どうしたんだ……?」

顔を上げた奈久留の顔が、涙で濡れているのに気が付いた雪夜は、急いで駆け寄った。

「ごめんねっ。すぐ止めるから」

そうは言ったものの、奈久留の涙は底をみせない。

心の中では止まれ、と何度も頭に命令を下すのに、止まらない。

ふわり、と何かに包まれた。

あの時、城で感じた温かさ。

「我慢するな。……泣きたい時は思いっきり泣けばいい」

何かが切れたようだった。

「わ、私、無力なのっ! 誰も助けられなかった! だれかに守られているだけで、何もできなかった!」

奈久留は、叫んだ。

思っていたことが、どんどん口からあふれ出ていく。

「私はみんなが思っているほど強くない! 私は、弱くてちっぽけな人間なんだよ!」

「奈久留は、弱くなんてない。無力なんかじゃない」

一瞬、涙が引っ込んだ。

「奈久留が誰よりもがんばってきたこと、俺はわかっている。だから、今日泣いて、全部ふっきればいい。お前は、強い」

奈久留は雪夜の腕の中で、声を枯らして泣いた。