「カット!」
監督の声が響き渡ると、触れていたふたつの唇が離れていく。
その様子を、あたしは魂が抜けたかのように見つめていた。
「…あゆ!あゆってば…っ!」
「へ…?」
冬馬の呼びかけによって、あたしは我に返る。
目の前には、不安そうな表情を浮かべている…冬馬の姿が。
あたしは必死にある感情を我慢すると、目の前にいる冬馬に笑顔を振りまく。
「ごめん冬馬!ちょっと考え事しちゃってさ…!」
「ならいいんだけど…大丈夫?あゆ…」
冬馬の少し垂れ下がった目からは、相当あたしの事を心配してくれている事が読み取れる。
…そんな表情を作っているのは、あたしなの?
「ちょっとお手洗い行って来るね!」
そんな冬馬を見ていられなくなって、あたしはダッシュでトイレへと向かった。
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