「ねーねー、2組の教育実習の先生、かっこよくない?」


隣の席の祐実ちゃんが、こそこそとあたしに耳打ちした。


今日もうだるような暑さ、クーラーの無い公立中学では、窓を開けるしかない。

おかげで、中庭から聞こえるセミの大合唱が、教室中に響いている。


「そうだね」


「あーあ、あたしも2組がよかったなぁ」


そう?

心の中で小さく呟いて、ぼんやりと、窓の外を見つめた。

あたしは3組でよかったって思ってるよ。


「――おい!沢村!」


突然の先生の声に、私は思わずビクンとした。


「あ、はい...すいません」


「窓の外ばっかり見て――集中しなさい。受験生!」


はい、スミマセン。
でも――


「じゃあ沢村。前にでて、水の生成の化学反応式を――」


あたしが見てたのは、目下に広がるグラウンドでも、雲ひとつ無い青空でも、体育やってる隣のクラスの男子でも、ないんです。

あたしが見てたのは、窓ガラス。



あたしが見たかったのは――窓ガラスに写った、ななめ後ろの鶴城先生。