20分ほどして、木村屋とは別の出前の牛丼が運ばれてきた。
私は、それを受け取ると、組長の立てこもっている取調室の前に立った。
「組長、木村屋の牛丼、届きましたよ?」
私は、取調室のドアに向かって声をかけた。
私の声が、警察署の廊下に響く。
その私の声の響きが、消えてすぐに取調室のドアが、ほんの少し開いた。
「・・・小夜だけだろうな?」
少し開いたドアの隙間からは、組長の目が覗き込んでいた。
組長の目は、いつもの天真爛漫な目とは違い、すべてを疑ったような目つきをしていた。
「はい。」
私は、組長のドア越しの目にうなずく。
「よし、それじゃ、廊下に牛丼を置いて、ドアから離れろ。」
私は、組長に言われたとおり、ドアの前に牛丼を置いてから、少し距離をとった。
すると、ゆっくりとドアが開き、中からキョロキョロと周辺を見回しながら、組長が出てきた。
組長の顔には、擦り傷や殴られて腫れた跡がついており、乱闘した後ということがうかがえた。
「大丈夫ですか、組長?」
私は、心配になり、組長に声をかけた。
そんな私に組長は、私が近づかないように右手で来るなというジェスチャーをした。