椿 麗子の指差したドアが開き、男性が一人入ってきた。
その男性は、175cmくらいの身長で、均整のとれた体格、そして何より、爽やかな顔つきが印象に残る。
スムーズな足取りで葵の前へと進む。
男性の両手には、零れんばかりの赤い薔薇の花束が握られていた。
その薔薇から色気のある香りが漂ってくる。
その香りとその男性の爽やかな顔つきのアンバランスさが、なんともいえないハーモニーを醸し出していた。
すでに、その場にいた女性達は、まるで一目ぼれに落ちたかの様な視線をその男性に送っている。
そんな中、葵は、別に興味もなさそうにその男性をまったく見ようとはしなかった。
「・・・・あれが葵様の婚約者ですか・・・」
執事が私の横で小声でつぶやく。
「・・・龍一さんの方が、カッコイイですね。」
私は、小声で、少し恥ずかしそうに執事に言った。
そんな私に執事は、クスリッと微笑むと、
「小夜さん、当然です。」
黒く輝く綺麗な髪をかきあげながら言い切った。
そして、私と執事は、微笑みながら見つめ合う。