「おかえり〜。また随分長かったな」


髪を乾かしてから部屋に戻ると、椅子に座ったロスが先程の事は忘れているかの様にヒラヒラと手を振って風呂上がりのクロムを出迎えてきた。…本当に一々癪に障る。


黙ったままロスの横を通り過ぎてドサッとベッドに倒れる。普段は1つに結っている髪の毛はおろされておりふわりと宙を舞った。寝転んだ寝具の心地良さに一気に眠気が襲ってくる。


「傷は塞がってたかー?」


「……あらかた塞がった」


ブーツを乱暴に脱いでから掛け布団中に潜り込みトントンと指でこめかみを指差した。銃弾が駆け抜けていったその場所は少し前までは穴が開いていたが今は僅かに傷が残るくらいになっていた。遠目から確認出来たらしくロスは満足気に頷いた。


ーーチカッ


不意に眩しさを感じて窓を見ると朝日が登り始めていた。その眩さに煩わしさを感じる。


シャッ!


乱暴にカーテンを引くと遮光カーテンのお陰で軽減された。


「くら〜。何時まで寝んの?」


「……流石に普段よりも血を流し過ぎたから目が覚めるまで寝る。絶対起こすなよ」


瞼が重くなってきている。半分目を瞑り目元を腕で覆う。微かな光も今は受け入れられなかった。腕で目を覆うと暗闇が広がる。その暗闇が心地良かった。


「うえー…マジか。なら俺も散歩に行ってくるかなー」


椅子から立ち上がったロスは背伸びをしながらそう呟いた。


「……勝手にしろ…。もう寝るぞ……」


眠気が強くクロムを襲っていた。話すのも億劫だった。意識は半分暗闇の中であった。


「はいはい。それじゃ俺は邪魔しないようにとっとと行ってきますよ〜」


「おやすみ」と声を掛けるのと同時に部屋から出ていく。


「………」



急に静かさが訪れた室内は静寂に包まれ時計の音だけが残っていた。一定のリズムを刻む秒針の音にいよいよ意識は眠りに侵食されていた。その後、数分足らずでクロムの意識は完全に眠りの中へ堕ちていった。


ーージャラ


服の下に入れていたネックレスが小さな金属音を奏でて再び外へ飛び出していた。僅かに開いていたカーテンの隙間から朝日が差し込み透明な石を照らしていた。溶け始めている氷を連想させるような光を放つその光景を目の当たりにしていたのは室内にあった物だけであった…………。




【第2夜 完】