「透明のネックレスだねっ!天然石かな?とっても綺麗!もしかして買ったの?」


「あんまりクロムが買い物しているイメージないけど」と子どもみたいな顔で聞いてくる。


「…元々持っていただけだ」


ネックレスから目を離したクロムは何処かバツの悪そうな顔をして答えた。


「そうなんだ!折角綺麗なんだから見せたらいいのに!」


「いや……そんなもんじゃねぇから」


「そう?それにしてもいいなー。オレも今度天然石の店行ってみようかな。青色の欲しい!」


「………」


僅か過ぎるクロムの様子の変動に全く気付いていない稀琉はまじまじとネックレスを見ている。そんなクロムの様子をロスは横目で見て少しだけ目を細めた。


「あっ、ごめんね。疲れてるよね?」


何も言葉を発さないクロムの様子に気付いた稀琉は慌てたように離れた。


「!」


その声にクロムはハッとしたように目を微かに瞬かせ、ネックレスを服の下にしまった。


「今から寝るよね?ゆっくり休んでね!」


ニコニコと微笑んだ稀琉に「…あぁ」と返事をする。


「ロスもおやすみ〜」


「おー。おやすみ」


手を振る稀琉にロスは微笑みながら手を振った。対してクロムは片手を上げただけだったが稀琉は気にしていない様子だった。足早に自室に向かって歩き出す。自室に戻るまで数分間だけだったが、道中2人は無言で歩き続けていた。



ーーガチャ


自室に戻ったクロムはコートを脱いでロスに投げつけた。


「おわっと!お前な〜。急に投げつけてくんなよ」


「…シャワー浴びてくる」


銃で撃たれて穴だらけになったロングTシャツになったクロムはロスの方を見ずに自室のシャワールームに向かう。そんなクロムにロスが「稀琉にネックレスの事を聞かれて……思い出しちゃった?」と聞いた。


ピクッ


ロスの言葉にシャワールームの扉に手をかけたまま眉をひそめるクロム。ほんの少し沈黙が流れる。


「……んなわけあるか。さっさと終わらせて、寝てぇんだから一々突っかかってくんな」


ガチャリと扉を開けて中に入る。


「はいはい。すみませんね」


余裕があるようなロスの言葉に苛立ちながら扉を閉める。






ーージャアアア……


シャワーの蛇口を捻るとお湯が流れてくる。頭からシャワーを浴びていると段々と透明な水が赤に染まっていった。


「………」


さっき撃たれた所を何気なく見ると殆ど塞がっていた。僅かに出血しているがすぐに止まるだろう。今、この水を赤で染めているのは殆ど返り血だ。


ーー稀琉にネックレスの事を聞かれて……思い出しちゃった?ーー


「…………」


先程のロスの言葉に眉をひそめる。普段は必ずとっているネックレスをつけたままシャワーを浴びていたので嫌でも目についた。


「………クソ悪魔が。分かりきった事聞きやがって…あの日の事を……忘れたことなんかねぇよ…」


シャワーの水音で掻き消されるほど小さな声で呟き、長い髪を前に移動させる。その背中には大きな傷跡があった。何かで引き裂かれたようなその傷は昔の傷跡であった。無意識に胸にあるネックレスを握りしめた。目を瞑りただお湯が体に当たるだけの時間が数分間続いたが、やがて何事もなかったかのように動き出し、乱暴に髪や体の汚れを落とした。


キッ……


ポチャン ポチャン……


蛇口を捻り今度はお湯を止めたクロムは浴室から出る。新品のタオルで体を拭いてからいつもの服に身を包んだ。