「………」
「…………」
明るくなってきた道を歩き続ける。ジルはヤナの体を気遣ってか、普段よりも歩く速度を落としてくれている。学校を出てから一言も発さないところを見ると、いまだに怒っているのは明白であった。
「………ジル」
その空気に耐えられなくなり声を掛ける。スッと向いた表情は、先程に比べて落ち着いているとはいえ険しさが残っていた。明け方の空にヤタガラスの声が聞こえてきている。木々の間からは木漏れ日が差し込んでいて、穏やかな雰囲気が流れている。しかし2人の間に流れる空気は澱んでいるように感じた。
「……どうされましたか、坊ちゃん」
「まだ怒ってる?」
「……それは否めませんね」
「……心配かけて悪かったよ。でも……」
「……分かっておりますよ。坊ちゃんの覚悟くらい」
後ろに手を組んで前を見る。魔鳥の囀りが辺りを満たしている。柔らかな風が木々の間を駆け巡っていく。葉の揺れる音しか聞こえなかった。やがて溜め息をついたジルは口を開いた。
「……坊ちゃん。俺は貴方が思っているよりもずっと…貴方の事を大切に思っているんです。だから…無理をして欲しくないんです。無理に戦う必要はないじゃないですか。確かに俺は実践は必要だと言いました。しかし貴方の心の傷を抉ってまでして欲しいとは思いません。…トランス状態になるくらいなら…今まで通りで良いではありませんか。坊ちゃんに無理なく戦闘力を身につくまでは俺が守りますから」
やはり納得していなかったのであろう。ジルは懇願するように前を向いたまま言葉を紡いでいった。ヤナが納得しないであろう言い方であるのは自覚しているのであろう。ハッキリと言いつつも静かな声でジルは自身の心境を語っていた。
「……」
ヤナはそのジルの心境を理解していた。恩人である父の息子である自分に彼が過保護なくらい思い入れをしてくれている事を。ずっと過ごしているからこそ感じ取っていた。再び辺りは風と魔鳥の囀りだけが包み込んでいた。
…分かっているよ。ジルが俺を大切にしてくれている事くらいは。自分が居ない時に仕えていた家族を守れなかった事に無力感を感じている事も。俺と同じように二度と同じ思いをしたくないって思ってるのもさ。…それでも。
スッと変わらずに前を向いているジルの背中を真っ直ぐ見る。
「……ジル。俺さ…。先生と手合わせして…改めて自分の弱点を思い知らされたよ。ジルは俺に合わせて戦ってるだろ?だから初めてだった。…俺のことを腫れ物扱いしないで本気で向き合ってくれた人は」
「……」
「…あ。勘違いしないで欲しいんだけどジルが悪いって言いたいわけじゃないんだ。多分ジルが俺に対して手加減してくれて徐々に慣らしてくれたから今の実力がついたと思うから。そうじゃなければ…俺は戦いそのものから逃げて、先生の言葉を受け入れられなかったと思うから」
「………」
「……俺は弱いのは嫌だ。父さん達を目の前で失ったあのトラウマの起因になってるから。俺は自分に負けたくない。その為に信じてみたいと思ったんだ。あの先生の指導を。だから……授業を受けるのを許してくれないか?」
「……」
ずっと黙っているジルは僅かにこちらに顔を向けた。俺は決意のこもった目でジルをじっと見ていた。再び前を向いたジルは深呼吸をした後に溜息混じりに答えた。
「……分かりました。正直納得はしておりませんが坊ちゃんの覚悟を貶すつもりはございません。……その代わり精一杯おやりなさい」
「!」
前を向いたジルは歩き始めた。顔をこちらに向けないところを見ると、言葉通り納得はしてくれてないようだ。それでもヤナの覚悟は伝わったのだろう。それ以外何も言わずに背中を押してくれていた。
「…うん。ありがとう」
「…いえ。さぁ、坊ちゃん。朝になってまいりました。早く帰りましょう」
「うん」
段々と明るくなってきた森を抜けて2人は自宅へ帰った。
「…………」
明るくなってきた道を歩き続ける。ジルはヤナの体を気遣ってか、普段よりも歩く速度を落としてくれている。学校を出てから一言も発さないところを見ると、いまだに怒っているのは明白であった。
「………ジル」
その空気に耐えられなくなり声を掛ける。スッと向いた表情は、先程に比べて落ち着いているとはいえ険しさが残っていた。明け方の空にヤタガラスの声が聞こえてきている。木々の間からは木漏れ日が差し込んでいて、穏やかな雰囲気が流れている。しかし2人の間に流れる空気は澱んでいるように感じた。
「……どうされましたか、坊ちゃん」
「まだ怒ってる?」
「……それは否めませんね」
「……心配かけて悪かったよ。でも……」
「……分かっておりますよ。坊ちゃんの覚悟くらい」
後ろに手を組んで前を見る。魔鳥の囀りが辺りを満たしている。柔らかな風が木々の間を駆け巡っていく。葉の揺れる音しか聞こえなかった。やがて溜め息をついたジルは口を開いた。
「……坊ちゃん。俺は貴方が思っているよりもずっと…貴方の事を大切に思っているんです。だから…無理をして欲しくないんです。無理に戦う必要はないじゃないですか。確かに俺は実践は必要だと言いました。しかし貴方の心の傷を抉ってまでして欲しいとは思いません。…トランス状態になるくらいなら…今まで通りで良いではありませんか。坊ちゃんに無理なく戦闘力を身につくまでは俺が守りますから」
やはり納得していなかったのであろう。ジルは懇願するように前を向いたまま言葉を紡いでいった。ヤナが納得しないであろう言い方であるのは自覚しているのであろう。ハッキリと言いつつも静かな声でジルは自身の心境を語っていた。
「……」
ヤナはそのジルの心境を理解していた。恩人である父の息子である自分に彼が過保護なくらい思い入れをしてくれている事を。ずっと過ごしているからこそ感じ取っていた。再び辺りは風と魔鳥の囀りだけが包み込んでいた。
…分かっているよ。ジルが俺を大切にしてくれている事くらいは。自分が居ない時に仕えていた家族を守れなかった事に無力感を感じている事も。俺と同じように二度と同じ思いをしたくないって思ってるのもさ。…それでも。
スッと変わらずに前を向いているジルの背中を真っ直ぐ見る。
「……ジル。俺さ…。先生と手合わせして…改めて自分の弱点を思い知らされたよ。ジルは俺に合わせて戦ってるだろ?だから初めてだった。…俺のことを腫れ物扱いしないで本気で向き合ってくれた人は」
「……」
「…あ。勘違いしないで欲しいんだけどジルが悪いって言いたいわけじゃないんだ。多分ジルが俺に対して手加減してくれて徐々に慣らしてくれたから今の実力がついたと思うから。そうじゃなければ…俺は戦いそのものから逃げて、先生の言葉を受け入れられなかったと思うから」
「………」
「……俺は弱いのは嫌だ。父さん達を目の前で失ったあのトラウマの起因になってるから。俺は自分に負けたくない。その為に信じてみたいと思ったんだ。あの先生の指導を。だから……授業を受けるのを許してくれないか?」
「……」
ずっと黙っているジルは僅かにこちらに顔を向けた。俺は決意のこもった目でジルをじっと見ていた。再び前を向いたジルは深呼吸をした後に溜息混じりに答えた。
「……分かりました。正直納得はしておりませんが坊ちゃんの覚悟を貶すつもりはございません。……その代わり精一杯おやりなさい」
「!」
前を向いたジルは歩き始めた。顔をこちらに向けないところを見ると、言葉通り納得はしてくれてないようだ。それでもヤナの覚悟は伝わったのだろう。それ以外何も言わずに背中を押してくれていた。
「…うん。ありがとう」
「…いえ。さぁ、坊ちゃん。朝になってまいりました。早く帰りましょう」
「うん」
段々と明るくなってきた森を抜けて2人は自宅へ帰った。

