その後。俺等が気絶している間に、先生はそれぞれの家に連絡をしていたようで、迎えが来るまで待つ事になった。
クローディアは身寄りのない、吸血鬼の子どもが居る施設に住んでいるので、そこの里親が迎えに来た。
「先生。うちのクローディアがご迷惑をお掛けしたようで…」
「いえいえ。寧ろ僕の方からお誘いしてしまいました。本来でしたらまず保護者であるマザーにお話すべきところをお迎えをお願いする事になり申し訳ございません」
先生がマザーと呼んでいる彼女がクローディアの母親代わりだ。初めの頃、俺もこの人の所へ行かないかと誘いがあったが断っていた。
「いいえ。お久しぶりね。ヤナくん。元気かしら?」
こちらを向いて微笑みを浮かべる彼女に軽く頭を下げる。断ったのは別にこの人の事が嫌いな訳だからではない。その時に何度か話をしたが、本当に優しく包み込むような温かさがある人だ。荒んで嫌な態度をとった俺にも怒る訳でもなく、俺の意思を尊重してくれる人だった。
「それなら良かったわ。あまり会えないので気になっていたの。ジルさんも元気なのかしら?」
頷くと彼女は更に優しく笑った。目尻の皺の多さがこの人の生き様を映し出している。きっとこの人となら上手くいったとは思う。それでも、身寄りのない施設に預けられるのは惨めだったし、ジルが強く志願してくれたおかげで俺はジルと2人で暮らすことになった。家は新たに引っ越して暮らしている。…流石にあの家に住む気にはなれなかった。
マザーは俺から目を離して寝ているクローディアの肩を優しく叩いた。
「さぁクローディア起きて。お家に帰りましょう」
「ん……あっ……マザー…わ、私…」
「大丈夫。フェイ先生から全てお伺いしましたよ。虚脱になる程、頑張ってたって。さぁ、後は帰ってから聞かせてちょうだい」
「う、うん……。…!あっ、あの。ヤナは?」
「ヤナくんならあっちよ」
マザーが指差すとすぐにクローディアはこちらに顔を向ける。ホッとしたような表情を浮かべている。
「よ、良かった…。か、体は大丈夫…?」
「……別に。なんて事ない」
目の下の隈のせいか、起きたクローディアの顔は更に儚げになっている。何故かその顔を見てられずに目を逸らしながら答えた。
「ヤナくんなら大丈夫ですよ。クローディアさんはマザーとお帰りください。今日はゆっくりお休みくださいね」
「は、はい…。ご迷惑お掛けしました」
「そんな事はありませんよ。また明日よろしくお願いいたします」
「こ、こちらこそ…よろしくお願いします…」
マザーに肩を貸してもらったクローディアはゆっくりと起き上がってベットから降りた。
「…ヤ、ヤナ。また…明日ね」
「………」
「…ヤナくん。たまには顔を見せてね。お節介は承知だけど…」
「……はい」
俺がクローディアに言葉を返さない事に見かねたマザーが声を掛けてくる。流石に無視することが出来ず、呟くように返事をする。
「ジルさんにもよろしく伝えてね。それでは先生。私達はこれで失礼しますね。ありがとうございました」
「はい。こちらこそお迎えありがとうございました。お気をつけてお帰りください。クローディアさん。さようなら」
「は、はい…さようなら…」
マザーとクローディアは挨拶をし、歩き出す。チラリとヤナの方を見たクローディアは不安げな表情を浮かべ、後ろ髪を引かれているような挙動で部屋から出て行った。それからすぐにジルが飛び込むように部屋に入ってきた。
「坊ちゃん!!」
「…やぁ、ジル。迷惑かけたな」
「そんな事ございません!それより大丈夫ですか!?」
先生の事は見えていないのか、駆け寄ってきたジルは俺の体を視診する。
「大丈夫だって」
「それでしたら安心しました…」
「ジルさん。お迎えに来ていただきありがとうございます。ご迷惑をおかけてしまい申し訳ございません」
「!」
先生に声を掛けられ、初めて先生が居ることに気付いたのか後ろを振り返る。
(…あ。ヤバい…これは相当怒ってる)
振り向き様のジルの険しい表情を見たヤナはそう感じていた。
「……先生。一体これはどういう事でしょうか…?こんな朝方まで坊ちゃんを拘束しただけでは悪しからず……怪我をさせたというのは?」
「…先程もご連絡した通りですが、ヤナくんに特別授業を行っておりました。その際に手合わせをさせていただいたのですが、ヤナくんが取り乱してしまったのでやむを得ず気絶させていただきました。大切なヤナくんに乱暴な事をしてしまい申し訳ございません」
ジルの出している殺気のせいでビリッとした空気が辺りを包み込む。それでも先生は表情ひとつ変えずにジルの言葉に返していた。
「……謝れば済む問題ではありません。坊ちゃんのトラウマを呼び起こすような真似をして……坊ちゃんに何かあったらどうされるおつもりだったんですか…?」
「ジルさんの言うことはごもっともです。申し訳ございません。しかし…必要な事だと判断したのでそのようにさせていただきました」
「……坊ちゃんへの手合わせでしたら俺がしますので結構です」
「ヤナくんも合意の上だったのですが…それでも許してはいただけませんか?」
「例え坊ちゃんがそう望んだとしても…結果、このような事態になっているじゃないですか。分かりますか?…坊ちゃんに何かあってからじゃ、遅いって言ってんですよ」
「お気持ちは分かります。ですが、今回だけこのような事態になりましたが…今後は、そうならないように僕が責任を持って見させていただきますので」
「話にならないですね。………何が責任を持ってだ。ふざけんのもいい加減にしろよ…?」
張り詰めた空気が続く中、敬語をやめたジルを見て反射的にまずいと感じたヤナは間に入る。
「やめろジル。俺が先生に頼んだんだ。確かに気絶させられたけど、それ以外は怪我もしていない」
「いいえ、そう言うわけにはいきません。既に起こっている事です。先生には責任をとってもらわないと割に合いません」
「ジル。俺は…強くなりたいんだ。無理強いさせられている訳じゃなくて自分で選んだ道だ。心配してくれてありがとう。でも……信じさせてくれ。二度と…あんな思いはしたくないんだ」
「坊ちゃん……」
俺の言葉にようやく殺気を治める。深く息を吸って吐いた後、睨むように先生を見た。
「……先生。今回は坊ちゃんに免じてここは引きましょう。…しかし、決して許したわけではありません。もし今後……俺が見ていられなくなったら…その時は責任をとってもらいますから」
その空気だけで先生を殺してしまうのではないかという程の殺気を再び出す。先生は表情を変えず、頭を深々と下げてから「…もちろんでございます。ご心配をおかけしてしまい申し訳ございませんでした」と再度謝罪の言葉を述べた。
「……坊ちゃん、帰りましょう。歩けますか?」
「あぁ、大丈夫だ」
ベットから降り、怒っているジルの後ろを歩く。
「…ヤナくん。さようなら」
「…さようなら」
先生の挨拶を返し、俺とジルも部屋を後にした。
クローディアは身寄りのない、吸血鬼の子どもが居る施設に住んでいるので、そこの里親が迎えに来た。
「先生。うちのクローディアがご迷惑をお掛けしたようで…」
「いえいえ。寧ろ僕の方からお誘いしてしまいました。本来でしたらまず保護者であるマザーにお話すべきところをお迎えをお願いする事になり申し訳ございません」
先生がマザーと呼んでいる彼女がクローディアの母親代わりだ。初めの頃、俺もこの人の所へ行かないかと誘いがあったが断っていた。
「いいえ。お久しぶりね。ヤナくん。元気かしら?」
こちらを向いて微笑みを浮かべる彼女に軽く頭を下げる。断ったのは別にこの人の事が嫌いな訳だからではない。その時に何度か話をしたが、本当に優しく包み込むような温かさがある人だ。荒んで嫌な態度をとった俺にも怒る訳でもなく、俺の意思を尊重してくれる人だった。
「それなら良かったわ。あまり会えないので気になっていたの。ジルさんも元気なのかしら?」
頷くと彼女は更に優しく笑った。目尻の皺の多さがこの人の生き様を映し出している。きっとこの人となら上手くいったとは思う。それでも、身寄りのない施設に預けられるのは惨めだったし、ジルが強く志願してくれたおかげで俺はジルと2人で暮らすことになった。家は新たに引っ越して暮らしている。…流石にあの家に住む気にはなれなかった。
マザーは俺から目を離して寝ているクローディアの肩を優しく叩いた。
「さぁクローディア起きて。お家に帰りましょう」
「ん……あっ……マザー…わ、私…」
「大丈夫。フェイ先生から全てお伺いしましたよ。虚脱になる程、頑張ってたって。さぁ、後は帰ってから聞かせてちょうだい」
「う、うん……。…!あっ、あの。ヤナは?」
「ヤナくんならあっちよ」
マザーが指差すとすぐにクローディアはこちらに顔を向ける。ホッとしたような表情を浮かべている。
「よ、良かった…。か、体は大丈夫…?」
「……別に。なんて事ない」
目の下の隈のせいか、起きたクローディアの顔は更に儚げになっている。何故かその顔を見てられずに目を逸らしながら答えた。
「ヤナくんなら大丈夫ですよ。クローディアさんはマザーとお帰りください。今日はゆっくりお休みくださいね」
「は、はい…。ご迷惑お掛けしました」
「そんな事はありませんよ。また明日よろしくお願いいたします」
「こ、こちらこそ…よろしくお願いします…」
マザーに肩を貸してもらったクローディアはゆっくりと起き上がってベットから降りた。
「…ヤ、ヤナ。また…明日ね」
「………」
「…ヤナくん。たまには顔を見せてね。お節介は承知だけど…」
「……はい」
俺がクローディアに言葉を返さない事に見かねたマザーが声を掛けてくる。流石に無視することが出来ず、呟くように返事をする。
「ジルさんにもよろしく伝えてね。それでは先生。私達はこれで失礼しますね。ありがとうございました」
「はい。こちらこそお迎えありがとうございました。お気をつけてお帰りください。クローディアさん。さようなら」
「は、はい…さようなら…」
マザーとクローディアは挨拶をし、歩き出す。チラリとヤナの方を見たクローディアは不安げな表情を浮かべ、後ろ髪を引かれているような挙動で部屋から出て行った。それからすぐにジルが飛び込むように部屋に入ってきた。
「坊ちゃん!!」
「…やぁ、ジル。迷惑かけたな」
「そんな事ございません!それより大丈夫ですか!?」
先生の事は見えていないのか、駆け寄ってきたジルは俺の体を視診する。
「大丈夫だって」
「それでしたら安心しました…」
「ジルさん。お迎えに来ていただきありがとうございます。ご迷惑をおかけてしまい申し訳ございません」
「!」
先生に声を掛けられ、初めて先生が居ることに気付いたのか後ろを振り返る。
(…あ。ヤバい…これは相当怒ってる)
振り向き様のジルの険しい表情を見たヤナはそう感じていた。
「……先生。一体これはどういう事でしょうか…?こんな朝方まで坊ちゃんを拘束しただけでは悪しからず……怪我をさせたというのは?」
「…先程もご連絡した通りですが、ヤナくんに特別授業を行っておりました。その際に手合わせをさせていただいたのですが、ヤナくんが取り乱してしまったのでやむを得ず気絶させていただきました。大切なヤナくんに乱暴な事をしてしまい申し訳ございません」
ジルの出している殺気のせいでビリッとした空気が辺りを包み込む。それでも先生は表情ひとつ変えずにジルの言葉に返していた。
「……謝れば済む問題ではありません。坊ちゃんのトラウマを呼び起こすような真似をして……坊ちゃんに何かあったらどうされるおつもりだったんですか…?」
「ジルさんの言うことはごもっともです。申し訳ございません。しかし…必要な事だと判断したのでそのようにさせていただきました」
「……坊ちゃんへの手合わせでしたら俺がしますので結構です」
「ヤナくんも合意の上だったのですが…それでも許してはいただけませんか?」
「例え坊ちゃんがそう望んだとしても…結果、このような事態になっているじゃないですか。分かりますか?…坊ちゃんに何かあってからじゃ、遅いって言ってんですよ」
「お気持ちは分かります。ですが、今回だけこのような事態になりましたが…今後は、そうならないように僕が責任を持って見させていただきますので」
「話にならないですね。………何が責任を持ってだ。ふざけんのもいい加減にしろよ…?」
張り詰めた空気が続く中、敬語をやめたジルを見て反射的にまずいと感じたヤナは間に入る。
「やめろジル。俺が先生に頼んだんだ。確かに気絶させられたけど、それ以外は怪我もしていない」
「いいえ、そう言うわけにはいきません。既に起こっている事です。先生には責任をとってもらわないと割に合いません」
「ジル。俺は…強くなりたいんだ。無理強いさせられている訳じゃなくて自分で選んだ道だ。心配してくれてありがとう。でも……信じさせてくれ。二度と…あんな思いはしたくないんだ」
「坊ちゃん……」
俺の言葉にようやく殺気を治める。深く息を吸って吐いた後、睨むように先生を見た。
「……先生。今回は坊ちゃんに免じてここは引きましょう。…しかし、決して許したわけではありません。もし今後……俺が見ていられなくなったら…その時は責任をとってもらいますから」
その空気だけで先生を殺してしまうのではないかという程の殺気を再び出す。先生は表情を変えず、頭を深々と下げてから「…もちろんでございます。ご心配をおかけしてしまい申し訳ございませんでした」と再度謝罪の言葉を述べた。
「……坊ちゃん、帰りましょう。歩けますか?」
「あぁ、大丈夫だ」
ベットから降り、怒っているジルの後ろを歩く。
「…ヤナくん。さようなら」
「…さようなら」
先生の挨拶を返し、俺とジルも部屋を後にした。

