Devil†Story

ー放課後ー


授業が終わってから俺とクローディアは再び対魔族学の教室で先生を待っていた。


「……」
「………」


誰もいない教室というのはまるで違う世界のように静けさで包まれている。俺は窓側に座ってやや空けてきた空を眺めていたのでクローディアの様子は分からないがきっとこちらを気にしつつ勉強をしているのだろう。時折ペンで何かを書く音が耳に入ってきていたので自習のようだ。


時計を見ると明け方4時29分23秒。あの先生のことだ。きっと4時半ピッタリに入ってくるだろう。チラリとクローディアを見ると集中してたのかずっと書き物をしている。


「………」


ふぅとため息をつきながらここまでする義理はあるのかと考えながら立ち上がりクローディアの方に歩き出した。やはり集中しているのかこちらに気付く様子はない。後ろから肩に手を置くとビクリと肩を震わせてこちらを向いた。


「わっ…な、何?」


「ん」


言葉の代わりに指を時計に向ける。時計は残り30秒で4時半を指すところであった。ハッとしたクローディアが慌てて自習道具をしまうのを見てから俺は席に戻る。


別にクローディアの為にやったわけでも先生の為にやったわけでもない。ざっと見積もって今日の特別授業は1時間半から2時間位だろう。それ以上時間が長引けば面倒だからだ。


丁度クローディアが机の上を整理し終えた瞬間4時半ピッタリになるのと同時に教室の扉が開かれてフェイ先生が入ってきた。必ず時間丁度で来るのがこの先生だ。遅く来ることはもちろん早く来ることもない。


「お二人ともよくいらっしゃいました。それでは時間も有限ですし始めましょうか」


挨拶もそこそこに手に持っていた道具を教壇の上に置いた。


「まずクローディアさん。貴女はこれを使ってヒール訓練をしていただきます。同時に基礎体力をつけてもらいます。何事にも体力がないとうまくいかないものです」


教壇の上に置いた透明な水晶玉を指差しながらクローディアに紙を渡した。どうやら訓練には水晶玉を、基礎体力トレーニングにはその紙に書かれたメニューをするようだ。

「…腕立て…腹筋…50回を3セットに…30分のランニング……」


紙を見たクローディアはまるで死刑を言い渡されたかの様に顔面蒼白になっていた。聞く限りでは50年前にできる様になっていて当たり前のメニューであったが本当に体力がないクローディアにとってはかなり辛いのだろう。


「まぁまぁ。初めはこの半分でも構いません。体を鍛える事が精神力を鍛える第一歩です。…まぁこれは子ども用のメニューですのでいずれはその倍のトレーニングをしていただきますが」


「はぅ……」


爽やかに答えるフェイとは対極にクローディアは倍という言葉を聞いて涙目になっていた。


「それと…こちらの水晶にはヒールを貯める事ができてその効果が高ければ高いほど…光が増す仕様となってます。一度見させていただきたいですし、試しにここにヒールをやってみてください」


机の上に水晶玉を持ってきたフェイはにこりと笑いながらそう指示をする。


「わ…分かりました…」


いきなり実践を言い渡されたクローディアは困惑しつつも水晶に手をかざす。緊張しているのか大きく深呼吸をしてから真剣な眼差しで手に魔力を込めた。


淡く…温かな光が机を照らしていた。その光は蛍火と似たものを感じ、決して眩い光ではなかったが思わず見惚れてしまう程の儚さを醸し出していた。


「ほぅ…これは……」

あのフェイ先生も感心したようにその光を見つめていた。時間にして1分くらいだろうか。突如光は消えた。

「ハァ…ハァ……」

息が乱れているクローディアの額には汗が滲み出ていた。


「流石に勉強されてるだけありますね。素晴らしい才能です。磨けば他の魔物にも負けないくらいのセンスをお持ちです。今の貴女のヒールだと1分程度が限界で貴女もおっしゃっていた通りに小さな傷は完治させる事ができますね。精神面に作用させるまでにはまだ先と言ったところでしょう。だからこそヒール訓練の同時にその疲労感を軽減させる必要があります」


「は…はい……」


今度は体力の消耗で顔面蒼白となったクローディアが力なく答えた。


「見せていただきありがとうございます。少しお休みください。さて次は…ヤナくん。君の番です」


ニコリと微笑んだフェイ先生がこちらを向く。

「貴方の訓練には場所を使いますので…戦闘訓練場に移動しましょうか」


俺は軽く頷いて先生の後に続いた。チラリとクローディアを見るとしんどそうではあるが大丈夫そうであった。そのまま俺は先を歩く先生に着いて教室を後にした。