ーー実技授業
「ーーほら!動きが悪いぞ!クローディア!!逃げるなーーこら!ヤナ!そこで突っ込むな!」
クソ野郎が大声で指示を出してくる。
(クソ…なんでこんな目に)
イラっとしながら後ろに下がる。
今は擬似実践の実技だ。沢山の傀儡に魔力を掛けて実際に襲われてしまったときの対処法を学ぶのだが……。
「クローディア!!逃げるな!」
「ハッ…ハイ…すみませ…」
「えぇ!?なんだって!?」
「すみま……」
まだ擬似実践が行われて5分程度。それでもクローディアは息も絶え絶えになっている。更に声が小さく近くにいる俺が漸く聞き取れる声でクソ野郎に返しているが聞こえない。
この実践ではペアのコンビネーションを深める為にあるのだが…俺らの場合は想像通り。俺とクローディアでは息が合うどころか動きを見ないでぶつかることもしばしばだった。
「ヤナ!1人で突っ込むなと何度言わせる!!クローディアが囲まれてるぞ!」
チラリと後ろを見ると座り込んでしまってるクローディアが居た。
(体力なさすぎるだろ…なんで1分前に逃げてたくせにもう囲まれてるんだよ…)
ーークスクス
ーーそれじゃダメじゃん王子様〜
ーーてかダメーディアの体力人間以下じゃない?
ーークスクス…クスクス
クラスメイトのヒソヒソ声が聞こえてくる。
(…全部聞こえてるっての)
これだから実技は嫌いなんだ…。あぁ、ムカつくーー。
「ほら!クローディアがやられてしまうぞ!」
その声に再度クローディアを見ると最早涙目で頭を抱えているクローディアを見て…嫌でもあの時のエリザベスが脳裏に浮かび上がる。
「…!!」
前にいた傀儡を蹴り飛ばして後ろに下がる。
「全く!!お前は動きが良くてもそれではーー」
クソ野郎がそう言うのと同時にクローディアを囲んでいた傀儡を全て薙ぎ払った。
ーーしん
それを見ていた全員が息を飲んだ。当たり前だろう。クローディアを囲んでいた傀儡を一撃で葬ったのだから。その数は10体以上。
教師ですら唖然としている。
(…嘘だろ。俺にすら見えんかったぞ)
教師が驚いていたのは薙ぎ払っただけではない。先ほどまで離れていた位置にいたヤナが一瞬でクローディアの前に行き傀儡を薙ぎ払ったからだ。
時間にして数秒の出来事であった。
「…あれ?」
強く目を瞑っていたクローディアは漸く目を開けて前を向いた。
「ヤ…ヤナ…」
「………」
ヤナは前を見てクローディアの方を見ようとしなかった。
眼光が鋭く光り手に力を入れていた。
辺りに冷たい空気が流れ出し、誰もがその殺気を肌に感じられる位のオーラであった。
ビキビキと手の血管が浮き出る音が聞こえ、一歩踏み出そうとした瞬間であった。
ーーポンっ
「!」
「!?」
ヤナの肩を誰かが叩いた。その手に触れられた瞬間ヤナの中にあった負の感情は消えていった。
「あ……フェイ先生……」
ゆっくりと振り返るとそこにはビシッとスーツを着こなす中性的な人物が優しく微笑みながら立っていた。
「ストップです。大丈夫です。深呼吸してください」
一瞬自我を失いかけたのを悟っていたのだろう。
耳元で静かに囁いた。
静かに深呼吸をし、呼吸を整える。落ち着いたのが分かると先生はニコリと笑ってからクローディアの方を見る。
「クローディアさん。かなり体に負担がかかってますね。これはいけません」
「ヤナくんのコンディションも良くありませんし」と付け加えて相変わらず優しく微笑む。
「フェイ先生…どうしてこちらへ?」
クソ野郎が驚きを隠せずにそう聞く。きっとさっきのヤナに触れられて落ち着かせたことに驚いているのだろう。
「えぇ、たまたま通りかかりましてね。2人とも無理をさせたと思いますので僕の方で連れて行かせて頂きますね」
「え?しかしーー「よろしいですよね?」」
クソ野郎の言葉に被せるように先生は言った。物腰は優しいが若干目を開いてクソ野郎を見るその雰囲気は有無を言わせない威圧感があった。
「え、えぇ…もちろん」
クソ野郎はいつもの大声は何処へやら静かに答えた。
「ありがとうございます。…では2人とも行きましょうか」
俺らの方を見る先生は先ほどと同じような微笑みを浮かべてクローディアに手を差し伸べた。
「あ、ありがとうございます…あ、あれ」
立ち上がろうとするクローディアだったが腰が抜けているのか先生の手をつかんだまま動けずにいた。
「おや、やはり腰が抜けてしまっていましたか。無理もないでしょう。…恐怖が拭えてないのですから」
「!」
その言葉で初めて逃げていた本当の意味を知った。クローディアは戦いが怖いのだ。
「大丈夫ですよ。失礼しますね。」
「わっ…!」
軽やかにクローディアをお姫様抱っこし、先生は「ヤナくんも行きましょう」と声を掛けた。
「…ハイ」
「それではお邪魔しました」
クソ野郎に挨拶し、先生と俺たちは実技教室から出た。
ーーはぁ〜やっぱりフェイ先生かっこいい〜!
ーーでも実際男と女どっちなんだろ?
ーー顔は女性的だもんね〜
フェイの登場で凍りついていた雰囲気は一瞬で溶けて女子たちがきゃーきゃー言い始めた。
「………チッ」
それを面白くなさそうに舌打ちした男子生徒が1人。それはよくヤナに絡んでいるあの男子生徒だった。
「どうした?」
いつも彼のそばに居る友人が舌打ちに気付いて声をかける。
「…マジでムカつく」
2人が消えていった通路を睨みつけながら彼は手に持っていたペンを折り砕いた。
「ーーほら!動きが悪いぞ!クローディア!!逃げるなーーこら!ヤナ!そこで突っ込むな!」
クソ野郎が大声で指示を出してくる。
(クソ…なんでこんな目に)
イラっとしながら後ろに下がる。
今は擬似実践の実技だ。沢山の傀儡に魔力を掛けて実際に襲われてしまったときの対処法を学ぶのだが……。
「クローディア!!逃げるな!」
「ハッ…ハイ…すみませ…」
「えぇ!?なんだって!?」
「すみま……」
まだ擬似実践が行われて5分程度。それでもクローディアは息も絶え絶えになっている。更に声が小さく近くにいる俺が漸く聞き取れる声でクソ野郎に返しているが聞こえない。
この実践ではペアのコンビネーションを深める為にあるのだが…俺らの場合は想像通り。俺とクローディアでは息が合うどころか動きを見ないでぶつかることもしばしばだった。
「ヤナ!1人で突っ込むなと何度言わせる!!クローディアが囲まれてるぞ!」
チラリと後ろを見ると座り込んでしまってるクローディアが居た。
(体力なさすぎるだろ…なんで1分前に逃げてたくせにもう囲まれてるんだよ…)
ーークスクス
ーーそれじゃダメじゃん王子様〜
ーーてかダメーディアの体力人間以下じゃない?
ーークスクス…クスクス
クラスメイトのヒソヒソ声が聞こえてくる。
(…全部聞こえてるっての)
これだから実技は嫌いなんだ…。あぁ、ムカつくーー。
「ほら!クローディアがやられてしまうぞ!」
その声に再度クローディアを見ると最早涙目で頭を抱えているクローディアを見て…嫌でもあの時のエリザベスが脳裏に浮かび上がる。
「…!!」
前にいた傀儡を蹴り飛ばして後ろに下がる。
「全く!!お前は動きが良くてもそれではーー」
クソ野郎がそう言うのと同時にクローディアを囲んでいた傀儡を全て薙ぎ払った。
ーーしん
それを見ていた全員が息を飲んだ。当たり前だろう。クローディアを囲んでいた傀儡を一撃で葬ったのだから。その数は10体以上。
教師ですら唖然としている。
(…嘘だろ。俺にすら見えんかったぞ)
教師が驚いていたのは薙ぎ払っただけではない。先ほどまで離れていた位置にいたヤナが一瞬でクローディアの前に行き傀儡を薙ぎ払ったからだ。
時間にして数秒の出来事であった。
「…あれ?」
強く目を瞑っていたクローディアは漸く目を開けて前を向いた。
「ヤ…ヤナ…」
「………」
ヤナは前を見てクローディアの方を見ようとしなかった。
眼光が鋭く光り手に力を入れていた。
辺りに冷たい空気が流れ出し、誰もがその殺気を肌に感じられる位のオーラであった。
ビキビキと手の血管が浮き出る音が聞こえ、一歩踏み出そうとした瞬間であった。
ーーポンっ
「!」
「!?」
ヤナの肩を誰かが叩いた。その手に触れられた瞬間ヤナの中にあった負の感情は消えていった。
「あ……フェイ先生……」
ゆっくりと振り返るとそこにはビシッとスーツを着こなす中性的な人物が優しく微笑みながら立っていた。
「ストップです。大丈夫です。深呼吸してください」
一瞬自我を失いかけたのを悟っていたのだろう。
耳元で静かに囁いた。
静かに深呼吸をし、呼吸を整える。落ち着いたのが分かると先生はニコリと笑ってからクローディアの方を見る。
「クローディアさん。かなり体に負担がかかってますね。これはいけません」
「ヤナくんのコンディションも良くありませんし」と付け加えて相変わらず優しく微笑む。
「フェイ先生…どうしてこちらへ?」
クソ野郎が驚きを隠せずにそう聞く。きっとさっきのヤナに触れられて落ち着かせたことに驚いているのだろう。
「えぇ、たまたま通りかかりましてね。2人とも無理をさせたと思いますので僕の方で連れて行かせて頂きますね」
「え?しかしーー「よろしいですよね?」」
クソ野郎の言葉に被せるように先生は言った。物腰は優しいが若干目を開いてクソ野郎を見るその雰囲気は有無を言わせない威圧感があった。
「え、えぇ…もちろん」
クソ野郎はいつもの大声は何処へやら静かに答えた。
「ありがとうございます。…では2人とも行きましょうか」
俺らの方を見る先生は先ほどと同じような微笑みを浮かべてクローディアに手を差し伸べた。
「あ、ありがとうございます…あ、あれ」
立ち上がろうとするクローディアだったが腰が抜けているのか先生の手をつかんだまま動けずにいた。
「おや、やはり腰が抜けてしまっていましたか。無理もないでしょう。…恐怖が拭えてないのですから」
「!」
その言葉で初めて逃げていた本当の意味を知った。クローディアは戦いが怖いのだ。
「大丈夫ですよ。失礼しますね。」
「わっ…!」
軽やかにクローディアをお姫様抱っこし、先生は「ヤナくんも行きましょう」と声を掛けた。
「…ハイ」
「それではお邪魔しました」
クソ野郎に挨拶し、先生と俺たちは実技教室から出た。
ーーはぁ〜やっぱりフェイ先生かっこいい〜!
ーーでも実際男と女どっちなんだろ?
ーー顔は女性的だもんね〜
フェイの登場で凍りついていた雰囲気は一瞬で溶けて女子たちがきゃーきゃー言い始めた。
「………チッ」
それを面白くなさそうに舌打ちした男子生徒が1人。それはよくヤナに絡んでいるあの男子生徒だった。
「どうした?」
いつも彼のそばに居る友人が舌打ちに気付いて声をかける。
「…マジでムカつく」
2人が消えていった通路を睨みつけながら彼は手に持っていたペンを折り砕いた。

