Devil†Story

人間たちが扉を開けようとした時、玄関が勢いよく開かれてその場に居た数名の人間が吹き飛ばされた。


ー出たぞー!!


ー化け物め!!


ー殺せ殺せ!!


外から聞こえてくる人間たちの声は狂気に満ちていた。


俺たちは無駄な殺生はしない。


血をもらう時も、出来るだけ殺さずに摂取していた。


中には人間と手を組んで、輸血用の血液と人間界で使うお金を交換していた吸血鬼達も居た。


出来るだけ隠密に…が掟であった。


中にはもちろん好戦的な奴も居たけど…それは人間にだって個々で特徴があるはず。


なのに……。


俺は階段の前から動かずに外を見つめて居た。


こうなったら…きっとそんなことは言ってられないのだから。


「…こんばんは。人間の諸君」


父はあくまで静かに穏やかな声で声を掛けた。


ーさっきの女吸血鬼も居るぞ!


ーやっぱり化け物だ!あんなにやったのにもうピンピンしてる!


別に元気なわけではない。あの美酒に使われて居るのは純銀であり、人間達が母に使った銀製の矢にはその他にも、あまり好ましくない物を混ぜたり、塗ったりしていたから母が弱っていた。


純銀であれば、諸刃の剣といえど覚醒剤的な効果で体が動くだけである。


「…君たちの村の疫病は我々のせいではない。それを証拠に、先程血を吸われたものは元気であろう?」


ー!?


人間たちは血を吸われた数人の方を向く。


確かに顔色は悪いが血も止まっているし、動けている。


「怖がらせてしまったのは申し訳ない。特に疫病が蔓延している時にこんなことがあれば…それは我々の落ち度だ。そのことについては謝罪する」


父が丁寧に頭を下げると、母もすぐに頭を下げた。


人間たちの顔に戸惑いがあるのが見て取れた。


ーだっ!騙されないぞ!怪我人が出てるのに!


「それは君達と同じ理由であろう。我々にも家族がいる。友がいる。現に既にこちらも死者が出ている。これ以上の犠牲は不毛だ。互いに利はないし、例え我々が敗北し死んでも…他にも吸血鬼はいる。それを機に我々と争いになり、夜も寝れない不安な日々は送りたくないだろう?…代わりと言ってはなんだが金輪際、君達の町には二度と姿を見せないことを約束しよう。だからどうか引いて欲しい」


穏やかに…しかし凛とした声で言い放つと辺りはいつもと同じような静けさが訪れた。


この町の奴らは、俺たちの村のすぐ近くに住んでいる人間達だ。


きっとそんな約束を勝手にしたら村長に叱られるだろうが、そこは父が上手く言ってくれるだろう。


襲われないと言われた人間達は顔を見合わせて狼狽えている。


押しつぶされそうなが空気が流れ、緊張が水面下で流れている。


こちらの要求は良い条件であるはずだ。


引いてもらえれば、今後町に近づかないという…他の奴らが聞いたら「そんなプライドのない事を言うな!吸血鬼としての誇りはないのか!」と怒鳴ることだろう。


…正直、俺も少し思う。


でも…それよりも出来ればエリーには怖い思いはして欲しくないし、母さんにも死んでほしくない。


何より…仲間達は自分のことだけ考えて結界内に逃げ込んだんだ。そんなこと言われる筋合いは無いはずだ。


そもそも父さん達が悪いんじゃ無い。


ルイさん達が戦闘が苦手なのをわかってて置き去りにした奴等が悪いんだ。


あまりの緊張感に考えることで、その場を乗り切ろうとしていた。


引いてもらえるならそれが1番だ。


プライドなんてクソ喰らえだ。


静かにその時を待つ。


父も母も動かずに同じように答えを待っていた。


ーー……もいい


「?」


静かだったにも関わらず聞こえなかったその言葉に耳をすます。


ーー…そんなのどうでもいい!どうせ約束だって守るものか!疫病だけじゃなくて俺たちはどうせこのままなら


ーーそうだ!こいつらは化け物だ!殺せ殺せ!


「!」


ーー正直なところ…疫病だけじゃない!俺たちを襲って来る敵は皆殺しにしなきゃ気が済まない!!


彼らには両親の声が聞こえていない…いや。考えることを放棄しているのだ。


そのくらい疫病や俺たちの存在は彼らにとって脅威の存在なのであろう。


攻撃することで自分たちの憎しみをここにぶつけて安心したいのだ。


「…残念だよ」


父も母も構えると、人間たちも武器を振り上げた。


ーーガシャーン!!


「!!」


裏口の扉が壊れる音が聞こえ、反射的に俺も身構える。


その音を合図に両親と人間達も動き出した。


人工的に作られた明るく騒がしい夜を変わらず星空が照らしいていた。