「なんてことだ…!」
「…頭の固いじーさんが」
父が悪態をついて額を手で抑えた。
辺りが夜明けのような淡い橙色で照らされてきた。それとともに地鳴りと化した咆哮も近づいてきてその怒りを孕んで強大になっていく。
「……すまない。クローリー…。俺が巻き込まなければ…」
「…いや。お前のせいじゃない。……そもそもあのメンバーで許可を出したのはじーさんだ」
そういう父の顔には暗い影が見受けられた。その中に何かを考えている時の父の表情が含まれていた。
「…まさか。いや…今は考えるのはよそう」
「?」
何か、確信をつくような父の呟きに疑問を覚えた。
問いだそうとしたがそれよりも先にルイさんが弱々しい声で話しかけてきた。
「……ヤナくん。すまないな…。危険な目に合わせてしまって…」
「いや…ルイさんのせいじゃないし……でも…どうしたらいいんだろう?」
「……仕方ない。ここで向かい入れよう。…ヤナ。今からとても残虐的な事が行われる。…俺も無事では済まないだろう」
「!」
狩りの姿をあまり見たことはなかったが、父は強い吸血鬼なのは村の評判から知っていた。
その父が無事で済まないのなら…俺なんか殺されるのではないか。
「……大丈夫だ。お前は…俺達が必ず守る。だが……俺と母さんはもしかするとそうはいかないかもしれない。エリーも…心に傷を負うだろう。しかし……どんなことがあっても…誰かにそれをぶつけずに生きて欲しい…。親の俺達がこんなことに巻き込んでしまってそんなことを言うのはあれだが…」
深く目を瞑って父は俺に軽く頭を下げた。
……そうか。もう…駄目なのか。
言葉に含まれる裏の意味を悟ると胸が締め付けられる思いだった。
だが、そうしている間にも咆哮は大きくそばまで来ていることを悟らせてきた。
「…ごめんね……ヤナ」
母の弱った声にもう元気な母を見ることはできないこともなんとなく予想できてしまった。
「……大丈夫。心配しないで」
そう言うのがやっとであった。
今まで何となく生きてきた。それが突然崩れる恐怖を…こんなすぐに味わうことになるとは夢にも思わなかった。
未だに命に関わるという実感は…この咆哮だけしかない。
どう行動していいか分からないでいると、今にも消えそうな声が耳に届いてきた。
「…あ…なた……」
「! アンナ!」
ルイさんが転がるようにアンナさんの近くへやってきた。
「ク…クロー…ディアは…?」
「…カーラが連れてきてくれたんだが……襲われて大怪我をしている」
「……そんな…!」
やはり母親という生き物は強い。殆ど瀕死の重体だというのに体を動かしてクローディアの方へ行こうと体を起こした。
「駄目だアンナ。君だって危険な状態なんだ」
ルイさんが止めるのも聞かずにアンナさんは体を引きずりながらクローディアの元へ向かった。
その血の気が失われた顔を見て悲しそうに頰を撫でた。
「ごめ…んね。クロー…ディア……。怖くて…痛いめに…あわせて……」
そう優しく撫でるがその問いにクローディアは答えることはなかった。
「……あなた」
「?」
振り返るアンナさんの顔はクローディアなんかよりも青白かった。
「…お願い…。あの子を…助けて……。私の…可愛い…ディアを…」
そういうと同時にアンナさんの立っている地面から陣が浮かび上がった。
「!!止めるんだ!アンナ!!」
父が突然叫んだ。その声で切羽詰まっていることは安易に想像出来た。
「アンナ…!駄目だ!」
手を伸ばし、アンナさんをその場から引き離そうとするがその瞬間、青白い光の壁がアンナさんの周りを覆った。
「そんな…なんてこと…!」
「…カーラ。ごめんなさいね…。でも…あの子を…救うにはこれしかないの」
弱々しく笑うアンナさんを見ると何故か見ていられなくなってしまい目を逸らした。
「…ルイ」
「アンナ………」
見つめ合う2人の表情は哀愁が漂っており、その場だけ時が止まっているような感覚に陥るような…そんな空間であったのを覚えている。
「…後は……おねがいね…」
「……あぁ。分かったよ…」
ルイさんがアンナさんに手を伸ばした瞬間…アンナさんの姿は淡く光り出し、光の粒子となってその姿を水色の結晶へと変えた。
ふわりとルイさんの手の上に落ちたその結晶を見て、ルイさんは声を殺して涙を流していた。
「…クローリー…すまない……。俺は…どうせ散る命だ。だから…その命を未来に…かけるよ…」
「…ッ……」
その言葉の意味がわかった父は耐えるように目を瞑った。
「…クローディア。ごめんな……こんな親で。でも…強く…生きてくれ……」
結晶を握りしめ、ルイさんは立ち上がりクローディアの方へ歩み出した。
そして、今度はルイさんが水色の光に包まれる。
「…俺たちの…可愛いクローディア。どうか…幸せになってくれ……」
そういうやいなか、ルイさんと水色の結晶へと変わったアンナさんが再び光に分解され、クローディアを包み込んだ。
2人の姿が消えたのと同時に、クローディアの体にあった傷は全て消え去って、苦悶の表情から安らかなものとなった。
「……安心しろ。2人とも。…何があっても…子どもたちは俺たちが守る」
「…あなた。…きっと私は…駄目だわ…だから…私も命を賭ける」
「……すまない。俺にも…あれを使う以外…この場を乗り切れる気がしない」
「…あれって?」
思わず聴くと父はいつも持っている鍵束から地下室の扉を開けて下へ行った。
そして持って来たのは銀の容器に入った小瓶であった。
それはあの時にヤナがクロムと戦った際に使った美酒と呼ばれるものであった。
あえて毒を体内に蓄積していくことで、生存本能からくる真の力を引き出すために使われているものであり、それをヤナは知ってた。
「…ヤナ。お前は…出来れば使うんじゃないぞ。これは諸刃の剣。俺たちは出来るだけ…これ以上の犠牲をなくこの一件を終わらせたい。だから…お前は階段を守っていてくれ。大丈夫。いつも通りにすればいい」
そう言いながら母に小瓶を渡した。
2人は深呼吸をしてからそれをゆっくりと飲み始めた。
そして飲み終わり、津波のように押し寄せていた咆哮を見据えた時だった。
ーーガタン!!!
「!」
玄関に斧が刺さり、扉がこじ開けられそうとなった。
ーーついにここまで来てしまった。
それをゴングに両親は獣のような瞳孔の瞳でその場に突っ込んで行った。
「…頭の固いじーさんが」
父が悪態をついて額を手で抑えた。
辺りが夜明けのような淡い橙色で照らされてきた。それとともに地鳴りと化した咆哮も近づいてきてその怒りを孕んで強大になっていく。
「……すまない。クローリー…。俺が巻き込まなければ…」
「…いや。お前のせいじゃない。……そもそもあのメンバーで許可を出したのはじーさんだ」
そういう父の顔には暗い影が見受けられた。その中に何かを考えている時の父の表情が含まれていた。
「…まさか。いや…今は考えるのはよそう」
「?」
何か、確信をつくような父の呟きに疑問を覚えた。
問いだそうとしたがそれよりも先にルイさんが弱々しい声で話しかけてきた。
「……ヤナくん。すまないな…。危険な目に合わせてしまって…」
「いや…ルイさんのせいじゃないし……でも…どうしたらいいんだろう?」
「……仕方ない。ここで向かい入れよう。…ヤナ。今からとても残虐的な事が行われる。…俺も無事では済まないだろう」
「!」
狩りの姿をあまり見たことはなかったが、父は強い吸血鬼なのは村の評判から知っていた。
その父が無事で済まないのなら…俺なんか殺されるのではないか。
「……大丈夫だ。お前は…俺達が必ず守る。だが……俺と母さんはもしかするとそうはいかないかもしれない。エリーも…心に傷を負うだろう。しかし……どんなことがあっても…誰かにそれをぶつけずに生きて欲しい…。親の俺達がこんなことに巻き込んでしまってそんなことを言うのはあれだが…」
深く目を瞑って父は俺に軽く頭を下げた。
……そうか。もう…駄目なのか。
言葉に含まれる裏の意味を悟ると胸が締め付けられる思いだった。
だが、そうしている間にも咆哮は大きくそばまで来ていることを悟らせてきた。
「…ごめんね……ヤナ」
母の弱った声にもう元気な母を見ることはできないこともなんとなく予想できてしまった。
「……大丈夫。心配しないで」
そう言うのがやっとであった。
今まで何となく生きてきた。それが突然崩れる恐怖を…こんなすぐに味わうことになるとは夢にも思わなかった。
未だに命に関わるという実感は…この咆哮だけしかない。
どう行動していいか分からないでいると、今にも消えそうな声が耳に届いてきた。
「…あ…なた……」
「! アンナ!」
ルイさんが転がるようにアンナさんの近くへやってきた。
「ク…クロー…ディアは…?」
「…カーラが連れてきてくれたんだが……襲われて大怪我をしている」
「……そんな…!」
やはり母親という生き物は強い。殆ど瀕死の重体だというのに体を動かしてクローディアの方へ行こうと体を起こした。
「駄目だアンナ。君だって危険な状態なんだ」
ルイさんが止めるのも聞かずにアンナさんは体を引きずりながらクローディアの元へ向かった。
その血の気が失われた顔を見て悲しそうに頰を撫でた。
「ごめ…んね。クロー…ディア……。怖くて…痛いめに…あわせて……」
そう優しく撫でるがその問いにクローディアは答えることはなかった。
「……あなた」
「?」
振り返るアンナさんの顔はクローディアなんかよりも青白かった。
「…お願い…。あの子を…助けて……。私の…可愛い…ディアを…」
そういうと同時にアンナさんの立っている地面から陣が浮かび上がった。
「!!止めるんだ!アンナ!!」
父が突然叫んだ。その声で切羽詰まっていることは安易に想像出来た。
「アンナ…!駄目だ!」
手を伸ばし、アンナさんをその場から引き離そうとするがその瞬間、青白い光の壁がアンナさんの周りを覆った。
「そんな…なんてこと…!」
「…カーラ。ごめんなさいね…。でも…あの子を…救うにはこれしかないの」
弱々しく笑うアンナさんを見ると何故か見ていられなくなってしまい目を逸らした。
「…ルイ」
「アンナ………」
見つめ合う2人の表情は哀愁が漂っており、その場だけ時が止まっているような感覚に陥るような…そんな空間であったのを覚えている。
「…後は……おねがいね…」
「……あぁ。分かったよ…」
ルイさんがアンナさんに手を伸ばした瞬間…アンナさんの姿は淡く光り出し、光の粒子となってその姿を水色の結晶へと変えた。
ふわりとルイさんの手の上に落ちたその結晶を見て、ルイさんは声を殺して涙を流していた。
「…クローリー…すまない……。俺は…どうせ散る命だ。だから…その命を未来に…かけるよ…」
「…ッ……」
その言葉の意味がわかった父は耐えるように目を瞑った。
「…クローディア。ごめんな……こんな親で。でも…強く…生きてくれ……」
結晶を握りしめ、ルイさんは立ち上がりクローディアの方へ歩み出した。
そして、今度はルイさんが水色の光に包まれる。
「…俺たちの…可愛いクローディア。どうか…幸せになってくれ……」
そういうやいなか、ルイさんと水色の結晶へと変わったアンナさんが再び光に分解され、クローディアを包み込んだ。
2人の姿が消えたのと同時に、クローディアの体にあった傷は全て消え去って、苦悶の表情から安らかなものとなった。
「……安心しろ。2人とも。…何があっても…子どもたちは俺たちが守る」
「…あなた。…きっと私は…駄目だわ…だから…私も命を賭ける」
「……すまない。俺にも…あれを使う以外…この場を乗り切れる気がしない」
「…あれって?」
思わず聴くと父はいつも持っている鍵束から地下室の扉を開けて下へ行った。
そして持って来たのは銀の容器に入った小瓶であった。
それはあの時にヤナがクロムと戦った際に使った美酒と呼ばれるものであった。
あえて毒を体内に蓄積していくことで、生存本能からくる真の力を引き出すために使われているものであり、それをヤナは知ってた。
「…ヤナ。お前は…出来れば使うんじゃないぞ。これは諸刃の剣。俺たちは出来るだけ…これ以上の犠牲をなくこの一件を終わらせたい。だから…お前は階段を守っていてくれ。大丈夫。いつも通りにすればいい」
そう言いながら母に小瓶を渡した。
2人は深呼吸をしてからそれをゆっくりと飲み始めた。
そして飲み終わり、津波のように押し寄せていた咆哮を見据えた時だった。
ーーガタン!!!
「!」
玄関に斧が刺さり、扉がこじ開けられそうとなった。
ーーついにここまで来てしまった。
それをゴングに両親は獣のような瞳孔の瞳でその場に突っ込んで行った。

