Devil†Story

その後、暫くは不安で俺のそばを離れなかったエリザベスも、明け方が近くなって漸く寝てくれた。


流石の俺も嫌な胸騒ぎが離れず、本を読んだり飲み物を飲むが落ち着かないくらいだ。


エリザベスはもっと不安なことだろう。


ジルは私用で戻るのが夜中を過ぎると言っていたし……。


…クローディアは大丈夫だろうか。


父さんや母さんは大丈夫だろうが、クローディアやルイさん達はそうはいかないだろう。


彼等は吸血鬼には珍しい治癒能力に特化した特質系の吸血鬼だ。


そもそも狩り自体あの家族は苦手である。


他の吸血鬼達はあの家族達を馬鹿にしていた。


あいつらは強さこそ全てだと思っている。


だから狩りが苦手=弱者という…なんとも獣みたいな思考なんだろう。


まぁ…それこそが俺達の本能であり、存在意義なのだろうけど。


だからこそ、弱者であるクローディア達を置いて逃げたんだろうけど。


…俺はその部分が人間のようで嫌いだが。


戦って死ぬのなら別に良い。


だが戦いもせずに弱者を餌に逃げるのは…それこそ弱者のやり方にしか感じない。


ていうか今、生きる為にクローディア達を追いかけ回している人間の方が好感が持てるくらいだ。


彼等は父が言うように数の暴力で、一人一人の弱さを補おうとしている。


きっと……人間の数だって時間が経てば経つほど多くなるだろう。


もし捕まったら………。


……いや。深く考えるのは止そう。


嫌なことしか浮かんでこない。


しかし……ここで釈然としない思いが根を張った。


人間達が数で押すと考えてるように、ルイさん達だって自分たちの狩猟能力が低いことを充分知っており、何かあった際はどう逃げるかを考えていた筈だ。


以前、人間界の珍しい食材を手に入れたと一緒に食事をした時にルイさんは血酒で酔って楽しそうにその食材をとった経緯を話していた。


その時に父に危険ではなかったのか聞かれて上機嫌で「俺も馬鹿じゃないからな。きちんとプランに合わせた逃げ方を考えてるんだよ。逃げ足だけには自信があるね!」と笑って言っていたのを聞いた。


そんな彼等が…助けをよこすほどの危険な目に合うだろうか?


ある意味、他の吸血鬼よりも臆病で慎重な彼等が。


そこがなんとなく引っかかっていた。


今回は何があったのだろうか…。


…ダメだ。ネガティブな考えだけが浮かんでくる。


俺は棚にしまっている人間界の菓子を取り出して口に含んだ。


飴という食べ物らしく、初めて食べた時に衝撃を受けたものだった。


元々甘めな感じの味付けが好きな俺にとってこんなに甘いものがあるか、これを作る人間達は凄いなと素直に思うくらいで思わずそれ以降も駄目だと思いながらも食べていた。


気疲れしている体に染み渡っていくような感覚が心地良い。


…そうだ。父さん達がいるんだから大丈夫だ。


きっと全員笑ってここに帰ってくる。


それを寝ないで待っていよう。


そう決心した俺は再び本の世界へ入っていった。