Devil†Story

「カーラ」


唖然とする俺に対して父は冷静に母の名前を呼んだ。


「どうしたの？」


それほど大きな声ではなかったが母はすぐにやってきた。


「…ルイ達が人間に追われているようだ」


「え？」


母は驚いた様子で聞き返す。


父は手袋をしながら先程の説明をした。


「そんなっ…」


「俺はルイ達の援護に向かう。…いくらルイ達が吸血鬼と言えども相手は数の暴力だ。勝てる見込みはほぼ皆無だろう」


深くシルクハットを被った父さんの目は静かな怒りで満ち溢れていた。


その目を見て俺は初めて父が怖く感じた。


「…そうね。私も行くわ」


母さんもエプロンをとって身支度を始めた。


「俺も行くよ！」


いつのまにか俺はそう叫んでいた。


2人は驚いた表情をしていた。


俺ですら驚いた。


父は暫く俺の顔を見ていたが一度目を閉じて俺の方に近付いて肩に手を置いた。


「気持ちは受け取るよ。だがエリザベスを連れて行くわけにはいかないから…お前はエリザベスを守っててくれ」


「でも！ーー「どうしたの？」


反論しようした時にエリザベスが不安そうにこちらを見ていた。


「大丈夫よ。お母さんとお父さんはちょっと出かけてくるから…お兄ちゃんと待ってて？」


母が優しい声でエリザベスを宥めていた。


「それにジルも使用に出ている。だからこそお前には家を守ってて貰いたい」


再び父を見るといつもと同じように優しく笑う父がいた。


俺は黙って頷いた。いや、頷かなければいけないと咄嗟に感じた。


こうして笑顔で出て行った両親の後ろ姿を不安そうにしているエリザベスの肩を抱えながら見送った。


ーーバタンっ


やけに扉の音が響いたことにとてつもなく嫌な予感がしたが、それを振り払うかのようにリビングへ戻った。